モモ主要品種と新品種候補の低温要求量、高温要求量と開花予測

要約

わが国の主要品種の低温要求量は約1,100チルユニット(CU)であるが「モモ筑波 127号」は約650CUと少ない。休眠覚醒日から満開日までの高温要求量(GDH) は主要品種と「モモ筑波127号」で差がない。CU及びGDHと気温から満開日を高精度で推定できる。

  • キーワード:開花予測、高温要求量、チルユニット、低温要求量、モモ新品種
  • 担当:果樹茶業研究部門・品種育成研究領域・核果類育種ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

モモの開花には冬の休眠期に一定量の低温にさらされる必要があり、わが国の主要品種における開花に必要な低温は低温要求時間(CH)で1,000~1,200CH程度とされている。より正確な低温要求量の指標としてチルユニット(CU)が知られており、また休眠覚醒から開花までに必要となる温度の指標として高温要求量(GDH)が知られているが、わが国のモモ主要品種におけるCUとGDH、これら値と開花期の関係については明らかにされていない。各品種のCUとGDHはモモの開花における温度反応に対する基礎的なデータであるとともに、各地の気温をもとにした開花期の予測、また施設栽培における開花期の制御に有効である。このため、わが国のモモ主要3品種、低温要求性の少ない新品種候補「モモ筑波127号」のCU、GDHと開花期の関係を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 切り枝法による4年間の調査(2012~2015年、つくば市)の結果、モモ主要品種の「あかつき」、「日川白鳳」、「川中島白桃」の低温要求量はチルユニットで約1,100CUであり、「モモ筑波127号」の低温要求量は約650CUである。「モモ筑波127号」のCUは亜熱帯由来の台木系統「オキナワ1」とともに、わが国の主要品種と比べて有意に少ない(表1)。
  • 休眠覚醒日から満開日までに必要なGDHは、モモ主要3品種と「モモ筑波127号」で約5,300~5,800であり、「オキナワ1」は4,700である。GDHは「オキナワ1」のみ有意に少なく、各主要品種と「モモ筑波127号」は有意な差を示さない(表1)。
  • 各品種の実際の満開日(2005~2015年の11年間、つくば市)と、その品種のCU、GDHをもとにつくば市の気温から算出される満開日の間には、高い相関(r=0.874から0.936)がみられる。さらに得られた回帰式による補正(「モモ筑波127号」の回帰式は表2)は、CU、GDHと気温から算出される4品種の満開日をより正確な値とするのに有効である(表2)。
  • わが国の17以上のモモ栽培地域(青森から鹿児島までを含む)における主要3品種と「モモ筑波127号」の調査の結果から、各品種のCU、GDHと、各地域の気温による開花日の算出は、わが国の温帯地域の全てにおいて有効である(図1は「日川白鳳」と「モモ筑波127号」)。
  • 「モモ筑波127号」の開花時期が主要品種と比べて早いのは、低温要求量が少ないためであり、特に温暖な地域ではその差がより顕著となる(図1)。

成果の活用面・留意点

  • 本調査により明らかとなった各品種のCU、GDHは、施設栽培等における低温積算の判断、加温による開花期の制御に利用できる。一方、低温要求量には年次変動がみられるため、休眠覚醒の判定には切り枝法の併用等による確認が必要である。
  • 近隣の気象観測所の気温データの利用は大まかな開花予測には有効であるが、平均気温で0.5°C程度の差でも2?3日の開花期の差が予測される。より正確な予測には圃場における気温の測定が有効である。

具体的データ

表1 モモ5品種の低温要求量(低温要求時間,チルユニット)zと高温要求量(GDH)yの4年間の平均値(2012?2015年、つくば市、切り枝法によるx)?表2 モモ主要品種と新品種候補の低温要求量(CU)、高温要求量(GDH)、低温積算開始日から算出した、休眠覚醒日の算出値、満開日の算出値、満開日の実測値の平均値(11年間、つくば市)?図1 わが国のモモ栽培地域における満開日の算出値と実測値の関係(2014年冬?2015年春、21場所)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2016年度
  • 研究担当者:澤村豊、八重垣英明、末貞佑子、杉浦俊彦
  • 発表論文等:Sawamura Y. et al. (2017) Hort. J. 印刷中