果樹園に発生する土着ジェネラリストカブリダニ類に悪影響の小さい殺虫剤

要約

果樹園で多く観察される土着天敵ニセラーゴカブリダニ、ミチノクカブリダニ、フツウカブリダニに対して、ジアミド系、IGR系殺虫剤を中心とした殺虫剤9剤と殺ダニ剤3剤、コウズケカブリダニでは殺虫剤7剤と殺ダニ剤2剤の悪影響が小さく、各種果樹でのIPM体系に利用出来る。

  • キーワード:ジェネラリストカブリダニ類、殺虫剤、殺ダニ剤、土着天敵
  • 担当:果樹茶業研究部門・リンゴ研究領域・リンゴ病害虫ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、減農薬果樹園を中心にニセラーゴカブリダニ、ミチノクカブリダニ、フツウカブリダニ、コウズケカブリダニの発生が多く報告されている。これらのカブリダニ種は微小昆虫類、ダニ類や花粉などの植物由来物といった広い食性をもつジェネラリストカブリダニ類に分類され、ハダニ類の密度上昇を未然に防ぐ潜在的な天敵、あるいはフシダニ類やアザミウマ類などの微小害虫に対する天敵としての役割が期待されている。これらのカブリダニ種を天敵として活用するためには、悪影響の小さい殺虫剤を組み入れた防除体系を構築することが必要である。しかし、これらのカブリダニ種に対する殺虫剤の影響はほとんど調べられていない。そこで、果樹で使用頻度の高い殺虫剤各種のこれらカブリダニ種に対する影響を調査し、天敵保護防除体系で利用可能な殺虫剤を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 各種殺虫剤を卵に散布した場合の発育途中での死亡率、および雌成虫に散布した場合の死亡率ならびに産卵数による評価では、供試した殺虫剤計29剤のうち、ジアミド系殺虫剤のフルベンジアミド、クロラントラニリプロール、シアントラニリプロール、IGR系殺虫剤のジフルベンズロン、テフルベンズロン、およびフロニカミドとピリフルキナゾンは、いずれのカブリダニ種に対しても悪影響が小さい(表1)。
  • IGR系殺虫剤のブプロフェジンとBT剤は、コウズケカブリダニ以外の3種で悪影響が小さい(表1)。
  • ネオニコチノイド剤については、いずれの薬剤も雌成虫の死亡率は比較的低いが、産卵数が少なくなる。雌成虫の産卵数と発育途中の死亡に対する影響の度合いは薬剤間、カブリダニ種間で大きく異なり、チアクロプリド、ジノテフランはいずれの種に対しても比較的悪影響が小さく、チアメトキサムはミチノクカブリダニ、ニセラーゴカブリダニおよびフツウカブリダニに対して比較的悪影響が小さい(表1)。
  • 殺ダニ剤については、シフルメトフェン、ピフルブミドは、いずれのカブリダニ種にも悪影響が小さく、また、シエノピラフェンもニセラーゴカブリダニ、ミチノクカブリダニおよびフツウカブリダニに対する悪影響が小さい(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 検定に用いた各種カブリダニは、殺虫剤無散布果樹園および農薬が散布されていない果樹園周辺植生から採集した。
  • 雌成虫に対する影響は散布後48時間後、また卵に対する影響は成虫発育までの短期間で評価した結果であり、残効性や果樹へ散布後の長期的な影響についてはさらなる検討を要する。
  • これらの成果は果樹以外の作物でも薬剤選択に際して参考にできる。

具体的データ

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:岸本英成、柳沼勝彦、外山晶敏
  • 発表論文等:岸本ら(2018)応動昆、62(1):29-39