ウンシュウミカンの全配列解読と遺伝子機能の予測

要約

ウンシュウミカンの全配列長は3億5965万塩基であり、約40%が反復配列で構成される。解読された塩基配列の機能予測から29,204個の遺伝子が予測され、カロテノイドやジベレリン生合成に関わる遺伝子が新たに見出される。

  • キーワード:ウンシュウミカン、ゲノム、全塩基配列、遺伝子機能予測、品種系譜
  • 担当:果樹茶業研究部門・カンキツ研究領域・カンキツゲノムユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ウンシュウミカンは年内出荷される国内カンキツの基幹品種であり、食べやすさや単為結果性、着色性など優れた特性を有する。ウンシュウミカンは「清見」など多くの品種の親としても利用されており、すぐれた特性を備える新規品種の効率的育成や高品質化を可能にする栽培技術の開発への利用が期待されている。しかしウンシュウミカンの特性には様々な要因が複雑に関わることから、包括的なゲノム情報の解明と理解が必要である。
これまでにカンキツではスイートオレンジ、クレメンティン、ブンタンの全配列が解読されているが、既往の全配列を参照するにはウンシュウミカンはこれらと遺伝的に遠縁であること、遺伝的なヘテロ性も高いために全塩基配列の解読が容易ではないことが障害となっていた。そこで、ヘテロ性の高いゲノムに対応可能な手法を利用してウンシュウミカン全配列を解読することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 短い配列を大量に解読できる高速DNAシーケンサと、長い配列を解読する高速DNAシーケンサを組み合わせ、ヘテロ性を考慮したソフトウェアを利用することでヘテロ性の高いゲノムの高精度な解読を可能とする(図1)。
  • 構築されるウンシュウミカンの全塩基配列の内容は20,876本のscaffoldおよび3億5,965万塩基対で、最大長5.23Mbp、scaffold N50 386.4kbp、ゲノムの39.5%が反復配列である(表1)。複数の手法で評価されたscaffoldの品質はすでに公開されている3品種の全塩基配列と同程度であった(データ略)。このscaffoldを遺伝地図と関連付けることで、カンキツの染色体数と同じ9本の仮想染色体配列(pseudomolecule)が構築される(図2)。
  • 塩基配列の解析から29,024個の遺伝子が推定され、既知の遺伝子との相同性からその85%について機能が予測される。推定される遺伝子の中から、ウンシュウミカンの重要な色素であるカロテノイドの生合成や、結実性等に関与するジベレリンの生合成・分解に直接関わる遺伝子が91個見出される。さらに、従来知られていなかった遺伝子や、ウンシュウミカンに特徴的な遺伝子も見出される(データ略)。
  • ウンシュウミカンの両親である紀州ミカンとクネンボの全塩基配列解読情報をもとに全ゲノム中の約59万個所の塩基配列を比較することで親子関係が確認される。さらに、クネンボが紀州ミカンの子であり、紀州ミカンが2度交雑してウンシュウミカンが生まれた系譜が示される(図3)。
  • 配列および遺伝子情報はhttp://www.citrusgenome.jp/で公開している。こちらから遺伝子名での検索や配列のダウンロードが可能である。

成果の活用面・留意点

  • ウンシュウミカンゲノム中の塩基配列多型の検出が容易になり、位置情報と周辺の遺伝子配列情報等を参照することで高精度なDNAマーカー開発が可能となる。
  • 今回新たに見出されたカロテノイドやジベレリンの生合成関連遺伝子の情報を利用して、果実の着色や結実性の分子機構に関する詳細な研究が可能となる。
  • ウンシュウミカンの来歴に関する知見から、ウンシュウミカンの有する優れた特性の起源とその特徴、ならびに紀州ミカンとの関係をあきらかにすることができる。
  • 本成果のゲノム解読手法はヘテロ性の高い他のカンキツ、果樹品種に利用することができる。

具体的データ

図1.本研究で利用したゲノム解読手法の概要;表1 解読されたウンシュウミカンscaffoldの概要;図2.構築された9本の仮想染色体塩基配列と連鎖地図との対応関係;図3.全配列解析から明らかとなったウンシュウミカンの成立経過

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)、競争的資金(科研費)、その他外部資金(情報・システム研究機構)
  • 研究期間:2011~2017年度
  • 研究担当者:清水徳朗、谷澤靖洋(遺伝研)、望月孝子(遺伝研)、長崎英樹(遺伝研、現かずさDNA研究所)、吉岡照高、豊田敦(遺伝研)、藤山秋佐夫(遺伝研)、神沼英里(遺伝研)、中村保一(遺伝研)
  • 発表論文等:Shimizu T. et al. (2017) Front. Genet. 8:180
  • doi:10.3389/fgene.2017.00180