温州ミカンは果実発育期前半の7~9月の乾燥ストレス付与で翌春の花芽が増加する

要約

温州ミカンでは、高糖度果実を生産するために果実発育期間中に乾燥ストレスを付与する。7~9月の乾燥ストレス付与は、翌春の花芽を増加させることが花芽形成関連遺伝子の発現を含めて明らかになった。花芽の適度な増加は結実数の確保に繋がると考えられる。

  • キーワード:安定生産、FT遺伝子、隔年結果、高糖度
  • 担当:果樹茶業研究部門・カンキツ研究領域・カンキツ栽培生理ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

温州ミカンは、環境条件、樹体条件および栽培管理によって花の数は変動し、花が少ない年は不作(裏年)となる。樹体への乾燥ストレス付与は、時期や強度の違いによって花芽の量を増加あるいは減少させることが報告されている。しかし、現場で実際に利用されている高糖度果実生産のための乾燥ストレス付与が、翌春の花芽の量に及ぼす影響は明らかでない。
そこで、本研究は、シートマルチ栽培により付与される乾燥ストレスが翌春の花芽の数に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 21年生「原口早生」を用いて、シートマルチ栽培で異なる4つの処理区、(i)前半乾燥区(乾燥期間:7月中旬~9月中旬)、(ii)後半乾燥区(9月中旬~11月中旬)、(iii)通期乾燥区(7月中旬~11月中旬)、(iv)湿潤区(灌水チューブによる灌水で乾燥ストレスを付与しないマルチ処理区)を設け、乾燥処理期間中は葉内最大水ポテンシャルを指標に好適なストレスレベル(葉内最大水ポテンシャルで-0.7~-1.0MPa)で管理する(図1)。
  • 乾燥ストレス付与により収穫時の果実品質は、前半乾燥区と後半乾燥区で糖度12以上、通期乾燥区で14.1となり、乾燥処理区はいずれも一般的な高糖度果実の基準である糖度12に達する(表1)。
  • 花芽形成関連遺伝子であるCiFTの発現は、前半乾燥区が高く、次いで通期乾燥区、後半乾燥区、湿潤区の順となる(図2)。
  • 翌春の発芽について、前半乾燥区と通期乾燥区の直花は湿潤区に比べて多く、新梢数は少ない。一方、後半乾燥区は湿潤区と同程度の花と新梢数となる(図3)。
  • 以上のことから、7~9月の果実発育期前半の乾燥ストレス付与は、花芽形成関連遺伝子の発現を増加させることで、翌春の花芽を増加させると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • シートマルチ栽培などによる高糖度果実生産は、副次的に結実数が確保され安定生産につながる。
  • 土壌排水性などの土地条件が良い地域において、果実発育期前半に雨が多く乾燥ストレスが付与されない場合、翌春の花は想定よりも少なくなる可能性がある。
  • 落葉を生じさせるような過度の乾燥ストレス付与は、翌春の花を減少させることが報告されている。
  • 果実発育期前半の好適なストレスレベルは、適正な着果量の場合、果実横径の日肥大量で約0.3mmが目安となる。
  • 乾燥ストレス付与は、果実が小玉化することから、商品性に影響する場合は摘果の時期を早めるか粗摘果の割合を高くする。
  • 開花期に新梢数が著しく少ない場合は、予備枝を作ることや摘蕾を行い、新梢の発生を促す。

具体的データ

表1 異なる乾燥処理による収穫時の果実品質,図1 処理区別の樹体の乾燥ストレスの推移,図2 異なる乾燥処理が花芽形成関連遺伝子の発現に及ぼす影響,図3 異なる乾燥処理が翌春の花と新梢の発生数に及ぼす影響

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010~2015年度
  • 研究担当者:岩崎光徳、西川芙美恵、深町浩
  • 発表論文等:
    • Iwasaki M. et al. (2019) Hort. J. 88:164-171