ニホンナシ果実の糖成分の品種間変異と環境変異

要約

ニホンナシ果実の糖成分の品種間変異において、「甘太」は糖の総含量と高甘味度の成分を高含有するため、甘味の点で優れている。環境変異は糖の総含量より各成分で小さい。品種の糖含量に関する遺伝的な特徴を把握するためには、1樹、1-2年、各年5果程度の反復が妥当である。

  • キーワード:ニホンナシ育種、広義の遺伝率、形質評価、遺伝分散、環境分散
  • 担当:果樹茶業研究部門・品種育成研究領域・ナシ・クリ育種ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6461
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ニホンナシ育種において甘味は重要な育種目標の一つである。甘味には糖の総含量(TSC)と組成のいずれもが影響し、ニホンナシではこれらに大きな品種間差異があることが知られている。ニホンナシ果汁内の主要糖成分はスクロース(SUC)、フルクトース(FRU)、グルコース(GLU)、ソルビトール(SOR)の4種類であり、特にSUCとFRUの甘味度が高いため、これらを高含有するTSCの高い品種育成が望ましいと考えられる。効率的な品種育成のためには、糖成分に関する品種間変異を明らかにするとともに、目標形質の環境変異を明らかにして広義の遺伝率{(遺伝分散/(遺伝分散+環境分散)}を高めて、より正確に形質を評価することが必須である。そこで、ニホンナシの交雑親候補における成熟果実の果汁内糖成分について環境変異と広義の遺伝率に関する情報を獲得し、効率的な評価法について明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ニホンナシ主要品種、および最近の育成品種等、育種親として利用頻度が高い13品種を4年、3樹、5果/品種/年を供試して果汁内糖成分を解析した結果、TSCは「甘太」、「ほしあかり」が総平均値より1%以上高い(表1)。一方、各糖成分において、甘味度の高いSUC含量が高い品種として「ゴールド二十世紀」、「秋麗」および「あきづき」、FRU含量が高い品種として「甘太」があげられる。特に「甘太」は、TSCおよび両成分の総量(11.9g/100ml)がともに高く、甘味の点で優れている。
  • TSCと糖成分に関して、分散分析によって遺伝分散と環境分散成分とを推定したところ、各成分では遺伝子型分散成分の比率が大きいのに対して、TSCでは小さい(表2)。環境分散成分の中では、ほとんどの形質で樹内果実間分散が最も大きい。また、TSCでは樹の要因が比較的大きいのに対し、SUCとFRUでは遺伝子型と年次の交互作用の要因が大きい。
  • 広義の遺伝率の増加に及ぼす年、樹、および樹内果実の反復については、樹と年をそれぞれ複数とすることで高まり、両者の効果はおおよそ同程度である(図1)。一方、果実数は5果までは増加するが、それ以上増やしても上昇に寄与しない。以上のことから、ナシ果汁内糖成分の遺伝的特徴を評価するためには1年、1樹、5果程度の反復が妥当である。さらに、年あるいは樹を反復することでより正確な評価が可能となり、樹反復は年反復と比較してコストが高いので、1樹を2年間、各年5果程度を評価することが望ましい。

成果の活用面・留意点

  • ナシの糖に関する効率的な果実形質の評価に寄与するとともに、より正確な遺伝子型値のデータを要する遺伝解析に役立つ。

具体的データ

表1 供試品種の果実中の総糖および糖成分含量,表2 ニホンナシ13品種、4年、3樹を用いた果汁内糖成分における分散成分,図1. 果実、樹および年次の反復がナシの糖成分の広義の遺伝率に及ぼす影響

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2014~2018年度
  • 研究担当者:齋藤寿広、寺上伸吾、髙田教臣、加藤秀憲、西尾聡悟
  • 発表論文等:Saito T. et al. (2019) HortScience 54:1465-1469.