高糖分高消化性イネWCS調製に適する乳酸菌添加剤「畜草2号」

要約

低温増殖能に優れる畜草2号乳酸菌は、高糖分高消化性イネWCS中の酵母及びカビの増殖を抑制し良質な発酵を促進する。開封後も飼料価値低下や廃棄ロスに繋がる好気的変敗を抑制する。本乳酸菌による変敗抑制効果は、籾米サイレージにおいても認められる。

  • キーワード:発酵飼料添加用乳酸菌、高糖分高消化性イネWCS、籾米サイレージ、発酵促進、好気的変敗抑制
  • 担当:畜産研究部門・飼養管理技術研究領域・飼料調製ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8647
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

高糖分高消化性イネWCS(ホールクロップサイレージ)を晩秋などの寒冷期に調製した場合、発酵が緩慢となり、有害微生物の増殖や飼料のエネルギー・栄養価の損失が懸念される。また、本発酵飼料を温暖期に調製した場合でも、好気的変敗に関与する酵母やカビが発酵中に増殖しやすく、開封前後の好気的変敗による飼料価値低下や廃棄ロスが問題となる。優れた低温増殖能と抗菌作用のダブル効果を発揮する乳酸菌添加剤の開発により、良質な発酵飼料の通年調製の達成と発酵飼料開封後の変敗トラブルの抑制を目指す。

成果の内容・特徴

  • Lactobacillus buchneri IWT192株(「畜草2号」使用株)は、4?45°Cの乳酸桿菌用培地で増殖する。本特徴は、同種異株JCM 1115T(基準株)及びSP株(トウモロコシ添加用旧市販品「サイロSP」使用株)や、Lactobacillus plantarum畜草1号株(既存市販品「畜草1号プラス」使用株)では認められない。
  • 晩秋調製の畜草2号添加「たちすずか」WCSでは、開封直後の乳酸、酢酸及び1,2-プロパンジオール含量が無添加区やサイロSP添加区より有意に高く、低pHの傾向が認められる(表1)。畜草2号添加区では、開封直後の大腸菌群、カビ及び酵母が未検出である(表2)。畜草2号添加区では、開封5日後も低pHと高い乳酸及び酢酸含量が維持され(表1)、好気的変敗を誘導する酵母やカビの増加が抑制される(表2)。開封後の発酵飼料の発熱も認められない(図1)。
  • 籾米を破砕後に水分含量約30%となるように加水調製した「べこごのみ」籾米サイレージにおいて、畜草2号添加区では開封後の発熱が認められない(図2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:自給飼料の生産・調製を行う農業法人や耕種・畜産農家
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:飼料用稲作付面積(H28年:41,366ha、農水省統計)が対象となる。特に、高糖分高消化性飼料用稲品種「たちすずか」(H28年:約2,000ha)、「たちあやか」(H28年:約100ha)及び「つきすずか」(普及予想:約600ha)が主な対象となる。
  • その他:IWT192株は、商品名「畜草2号」として雪印種苗株式会社より全国発売されている(発売日:2016年9月1日)。発酵促進や好気的変敗抑制を目的とする「畜草2号」は、高糖分高消化性飼料用稲品種への利用が推奨されるが、穂重型・茎葉型従来品種へも利用可能である。また、サイレージ調製を温暖期に実施する場合に加えて、晩秋などの寒冷期に実施する場合にも利用が推奨される。

具体的データ

表1 疎植栽培時の出穂期、収量、産米品質;表2 年次、株あたり植え付け本数ごとの収量、収量構成要素;表3 晩限内出穂安全率90%以上となる推定移植晩限;図1 一穂籾数と整粒歩合の関係

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2013~2016年度
  • 研究担当者:遠野雅徳、井上秀彦、川出哲生、小林寿美、宮地慎、野中和久、福馬敬紘(広島総研畜技セ)、河野幸雄(広島総研畜技セ)、本間満(雪印種苗)、北村亨(雪印種苗)
  • 発表論文等:
    1)遠野ら「新規飼料添加用乳酸菌」特願2015-256307 (2015年12月28日)
    2)遠野ら「新規飼料添加用乳酸菌」特願2016-226916 (2016年11月22日)
    3)遠野(2016)平成28年度自給飼料利用研究会資料、56-64
    4)河野(2016)平成28年度自給飼料利用研究会資料、65-69