好気環境でも使用できる初めてのリアルタイムBODバイオセンサー

要約

発電細菌を用いた新規センサーは、BOD(水の汚れを表す指標)をリアルタイムで検出できる。電極上にバイオフィルムを形成させることで曝気槽の様な好気環境でもBOD測定が可能になり、水質監視や曝気制御など排水処理の高度化に利用できる。

  • キーワード:バイオセンサー、BOD、曝気制御、発電細菌、水処理
  • 担当:畜産研究部門・畜産環境研究領域・水環境ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8647
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

BOD(生物学的酸素要求量)は水の汚れの指標で、排水の浄化処理や河川の水質監視において重要な測定項目である。畜舎から出る排水のBOD濃度は日々変動するため、排水処理施設ではBOD値に応じて浄化槽の曝気を調節することが望ましい。しかし、従来法では5日間もの測定時間が必要なため、BOD値に対応した運転制御は困難である。発電細菌とは有機物を分解する際に電極に電子を渡す活性を持つ細菌群であり、土壌や畜ふん、海底など様々な環境に存在している。発電細菌はBODの値が高い程、多くの電流を発生する。発電細菌による発電には嫌気条件が必須であり、曝気槽の様な好気環境への適用は不可能であると考えられている。好気でも使用できるセンサーを開発できれば、水質監視や排水処理施設の省エネ、窒素除去など排水処理施設の高度化に応用できる。

成果の内容・特徴

  • 本センサーは、3本の電極(バイオ電極、参照電極、カウンター電極)を電位制御装置(ポテンショスタット)に接続した構造である(図1)。発電細菌はバイオ電極に付着して有機物を分解しながら電極に電子を伝達する。BODと同時にpHも測定することで浄化槽の運転状況の把握に利用する。本センサーを曝気槽なとの測定対象に直接挿入してBODをモニタリングする。
  • 畜舎排水を処理している曝気槽内には、畜フン由来の発電細菌が含まれている。センサーを曝気槽に挿入すると、不溶性濁懸物と共に様々な細菌がバイオ電極の表面に付着してバイオフィルムが形成され(図2、右)、電流が自然に発生する。
  • 浄化槽内を間欠的に曝気したときに発生した電流と従来法で測定したBOD値との相関を図3に示す。曝気中と曝気停止時の両方の時間において同程度の発電が観察され、BODと高い相関がある(R2 > 0.9)。BOD濃度が200 mg-BOD/Lを超えると発生電流は飽和するため、検出範囲はおよそ30~200 mg-BOD/Lである。バイオフィルムの表面に存在する好気性細菌が酸素を除去した結果、内部が嫌気性になり発電細菌が電流を発生できた推測される。本センサーは好気環境でも測定できる初めてのセンサーである。従来法はサンプルを瓶に詰めて測定する手動測定であるが、本センサーは自動測定ができる。

成果の活用面・留意点

  • 浄化槽の曝気には大量の電力が消費されている。本センサーを利用して、BOD値に基づき無駄な曝気を低減することでランニングコストを削減(省エネ)することが可能であると期待される。近年、畜産業に対する窒素の排水基準が強化される傾向にある。排水中に含まれる窒素を除去する際にもBOD値に応じた曝気制御が重要であることから、窒素除去への応用も想定される。
  • 本センサーは家庭用の浄化槽、下水処理場、河川の水質監視などへの利用も考えられる。
  • 本センサーは設置した後、正確な測定を開始するためには1ヶ月程度の馴養期間が必要である。参照電極とカウンター電極は運転に伴い徐々に劣化するため、定期的な交換が必要である。

具体的データ

図1 リアルタイムBODバイオセンサーの模式図?図2 BOD センサーのバイオ電極の使用前(左)と使用後(右)の写真?図3 センサーの電流とBODの相関

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(27補正「地域戦略プロ」)
  • 研究期間:2015~2016年度
  • 研究担当者:横山浩、山下恭広、石田三佳
  • 発表論文等:
    1)Yamashita T. et al. (2016) Sci. Rep. 6:38552
    2)横山ら「微生物電解セル」特願2016-001767 (2016年1月7日)
    3)横山ら「微生物燃料電池」特願2014-225062 (2014年11月5日)