皮膚機能を改善するLactobacillus curvatus FBA2の完全長ゲノム配列

要約

第3世代シーケンサーを用いて解析した乳酸菌Lactobacillus curvatus FBA2のゲノムはプラスミドをもたない1.85 Mbpの環状染色体である。これはL. curvatusの完全長ゲノム配列としては最初の報告である。

  • キーワード:乳酸菌、Lactobacillus curvatus、完全長ゲノム配列、PacBio RS II
  • 担当:畜産研究部門・畜産物研究領域・畜産物機能ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8647
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

沖縄の漬物から分離されたLactobacillus curvatus FBA2 (以下FBA2)は、in vitroスクリーニングおよび皮膚機能低下モデルマウスにおいて皮膚機能改善作用を有する菌株で、共同研究により特許を取得、実用化に至っている。乳酸菌の菌株特異的な特性は様々な挿入配列やプラスミドなど菌株特有のゲノム構造に由来するが、これまでL. curvatusの完全長ゲノム配列は得られていない。そこで本研究では、非常に長いリード(鋳型DNAの1分子から読まれる塩基配列情報)が得られる第3世代シーケンサーPacBio RS IIを用いてFBA2の完全長ゲノム配列を構築し、L. curvatusの他菌株との比較解析によりFBA2のゲノム構造の特徴を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 断片化の少ない高純度のゲノムDNAを得るため、断片化を生じるカラム精製は避け、対数増殖期のFBA2菌体を用いてリゾチーム消化後、エタノール沈殿、フェノール抽出などで精製した後、蛍光試薬により無傷の二本鎖DNA量を定量し、高分子DNAが解析可能なパルスフィールド電気泳動にて長鎖DNAおよびプラスミドを確認した後シーケンス反応に使用する。
  • シークエンス解析の結果得られた842,920リード(平均リード長4,419 bp)から構築されたFBA2の完全長ゲノムは1,848,756 bp(GC含量 42.1 %)の環状染色体である。
  • シーケンスデータ解析においても、またパルスフィールド電気泳動においてもプラスミドのバンドが検出されないことから、FBA2はプラスミドを保有しない。
  • FBA2は、短いリードによる次世代シーケンサーでは解析が困難な1 kb以上の同一配列を43ペア、22個の挿入配列、低GC領域などを含み、これらの配列はL. curvatusの基準株JCM 1096Tでは検出されていない(図1)。
  • FBA2の解析後、現在までにL. curvatus WiKim38、L. curvatus WiKim52の完全長ゲノム配列の報告があり、FBA2ゲノムのカバー率はそれぞれ93 %、92 %で、いずれも相同性のある領域では99 %の同一性を示す。ゲノム解析が報告された7株の比較を図2に示す。

成果の活用面・留意点

  • 決定したゲノム配列はDDBJ/ENA/GenBankのデータベースに登録及び公開済である(アクセッション番号CP016028)。
  • 公開済の配列データは、世界中で同種や近縁種の菌株のリファレンス配列として活用できる。
  • L. curvatus FBA2は農研機構とアサヒグループホールディングスが特許(特許5791009号)を保有する菌株であるため、菌株の使用は発明者の承諾が必要である。
  • 既知の同種菌株のゲノムとの比較によりFBA2に特異的な遺伝子配列が明らかになり、知財戦略上重要な菌株特異的マーカーを作出できる。菌株特異的マーカーは、摂取したときの腸管におけるその菌株の動態の追跡が可能になり、健康機能性のメカニズム解明に活用できる。
  • PacBio RS IIを用いたゲノム解析は沖縄綜合科学研究所との共同研究成果である。

具体的データ

図1 L. curvatus FBA2のゲノム構造とL. curvatus JCM 1096T(L. curvatusの分類上の基準株)のゲノム解析で得られている72本のコンティグ(配列結果をつなげた断片)との比較?図2 これまでにゲノム配列が得られているL. curvatus菌株の比較

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(知的クラスター形成に向けた研究拠点構築事業)
  • 研究期間:2015~2016年度
  • 研究担当者:鈴木チセ、木元広実、小林美穂、水町功子、青木玲二、小川智子、守谷直子、萩達朗、野村将、中野和真(沖縄綜研)、城間安紀乃(沖縄綜研)、保日奈子(沖縄綜研)、大木駿(沖縄綜研)、下地真紀子(沖縄綜研)、安次嶺典子(沖縄綜研)、新里美寿々(沖縄綜研)、南茉緯子(沖縄綜研)、中西哲大(沖縄綜研)、照屋邦子(沖縄綜研)、佐藤万仁(沖縄綜研)、宮田智(アサヒグループ食品)、山本佳津江(アサヒグループHD)、大竹康之(アサヒグループ食品)、平野隆(沖縄綜研)
  • 発表論文等:Nakano K. et al. (2016) Genome Announc. 4(5) e00884-16.
    doi:10.1128/genomeA.00884-16