筋線維型が異なるシングルファイバー間のトロポミオシンアイソフォームの発現比

要約

ウシ骨格筋より遅筋型および速筋型のシングルファイバーを単離し、トロポミオシンの各アイソフォーム(TPM-1、TPM-2、TPM-3)の発現量を分析すると、遅筋型筋線維ではTPM-2およびTPM-3が、速筋型筋線維ではTPM-1およびTPM-2が発現する。

  • キーワード:筋線維型、ウシ、トロポミオシン、シングルファイバー、アイソフォーム
  • 担当:畜産研究部門・畜産物研究領域・食肉制御ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8625
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

骨格筋は筋線維とよばれる細長い細胞が束になった組織である。ウシ骨格筋の筋線維には、1種類の遅筋型と2種類の速筋型が存在する。筋線維型は食肉の色調、風味およびテクスチャーなどの品質と関連することから、筋線維型間で構成タンパク質にどのような違いがあるかを明らかにすることは食肉の品質を改善する上で重要である。トロポミオシン(TPM)は骨格筋の収縮時にアクチンとミオシンの相互作用を制御する調節タンパク質である。TPMには3種類のアイソフォーム(TPM-1、TPM-2、TPM-3)が存在する。本研究では、異なる筋線維型間でこれら3種類のアイソフォームがどのような分布をしているのかを、シングルファイバー(1本の筋線維)レベルで明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ホルスタイン種雌4頭から採取した3種類の骨格筋、咬筋(ほほ肉)、半棘筋(リブロースの一部)、半腱様筋(そとももの一部)より、実体顕微鏡下でシングルファイバーを単離する。
  • 単離したシングルファイバーより調製したtotal RNAを用いて、3種類のTPMアイソフォームの発現量をそれぞれ測定することができる。
  • シングルファイバーの筋線維型を、ミオシン重鎖(MyHC)アイソフォームを指標として判定すると、咬筋から単離したシングルファイバーは全てMyHC-slow型である。半棘筋から単離したシングルファイバーには、MyHC-slow型とMyHC-2a型の2種類がある。半腱様筋から単離したシングルファイバーには、MyHC-slow型、MyHC-2a型、MyHC-2x型の3種類と、複数のアイソフォームが発現するハイブリッド型がある(表1)。
  • 各筋線維型でのTPMアイソフォームの発現割合は、MyHC-slow型ではTPM-3が、MyHC-2a型とMyHC-2x型ではTPM-1が特異的に発現する(図1)。TPM-2は筋線維型に特異的な発現はしない。
  • 3種類の骨格筋間で、各筋線維型におけるTPMアイソフォーム発現量に違いがないことから、TPM-1は速筋型に、TPM-3は遅筋型に特徴的なアイソフォームであることが示唆される。

成果の活用面・留意点

    1,骨格筋の主要なタンパク質であるTPMアイソフォームの発現比が、筋線維型により異なることは、骨格筋の類型化手法の開発に資すると共に、食肉の官能評価データ等とあわせることで食肉の品質改善に活用できる。
  • 発現量の多い遺伝子については、筋線維1本レベルで遺伝子発現解析が可能である。
  • ウシでは3種類のミオシン重鎖が発現しているが、ブタやマウスなど他の動物種では4種類のミオシン重鎖が発現しているため、結果が異なる可能性がある。

具体的データ

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2011~2016年度
  • 研究担当者:大江美香、尾嶋孝一、中島郁世、千国幸一、柴田昌宏、室谷進
  • 発表論文等:Oe M. et al. (2016) Meat Sci. 118(8):129-132