ガラス化冷却したブタ未成熟卵子の胚発生能をレスベラトロールが改善する

要約

ガラス化冷却後のブタ未成熟卵子を体外成熟させる際、培養液に2μMのレスベラトロールを添加するとガラス化冷却処理によって低下した胚発生能が改善される。

  • キーワード:ジーンバンク、ブタ、卵子、ガラス化冷却保存、胚発生
  • 担当:畜産研究部門・家畜育種繁殖研究領域・家畜胚生産ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8630
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

未成熟卵子の超低温保存技術は希少な動物種等の遺伝資源の保存(ジーンバンク)を充実させるために重要である。ブタの未成熟卵子についてはガラス化冷却による超低温保存が可能となったが、保存後の胚発生能はまだ十分とはいえない。最近、ガラス化冷却を施したブタ未成熟卵子でアポトーシスの経路が活性化されることが明らかとなり、ガラス化冷却前後における2μMのレスベラトロール(スチルベン誘導体ポリフェノールの一種)処理がアポトーシスの抑制に有効であることが示唆された。本研究ではレスベラトロールがガラス化冷却したブタ未成熟卵子の胚発生能の改善に有効であるか否かを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 雌個体から採取したブタ未成熟卵子にガラス化冷却を施して保存し、その後加温して体外成熟させる際、レスベラトロールを2μMの濃度で培養液(porcine oocyte medium、POM)に添加する。成熟した卵子に単為発生誘起処理を施して胚盤胞へと発生させる。その流れを図1に示す。
  • 未成熟卵子のガラス化冷却により胚発生率は低下するが、体外成熟中にレスベラトロールを添加することで胚発生率が改善される(図2、3)。
  • すでにガラス化冷却され、超低温保存状態にある未成熟卵子にも適用できる。

成果の活用面・留意点

  • ブタ未成熟卵子のガラス化冷却保存の実施者であれば、新しい技術や機器を必要とすることなく、安価なレスベラトロールによって卵子の超低温保存の効率を改善することができる。
  • 胚発生能の改善をもたらすレスベラトロールの作用機序は不明である。また、レスベラトロール処理を施された卵子の産子への発生能はまだ証明されていない。
  • ガラス化冷却保存を行わなかった未成熟卵子や、30分間のレスベラトロール処理後にガラス化冷却して成熟させた卵子では効果が認められなかったことから、レスベラトロールはガラス化冷却による損傷の回復を体外成熟中に促すものであると考えられる。

具体的データ

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)、その他外部資金(ブラジル科学技術開発国家審議会)
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:ソムファイ タマス、Elisa Caroline da Silva SANTOS、Ruth APPELTANT、Thanh Quang DANG-NGUYEN、野口純子、金子浩之、 菊地和弘
  • 発表論文等:Santos E. C. S. et al. (2018) Reprod. Domest. Anim. 53(2):304-312 doi:10.1111/rda.13105 . Epub 2017 Nov 16