日本人における国産乳用種肥育去勢牛肉を好む消費者群の特徴

要約

日本人消費者の一部に国産乳用種肥育去勢牛肉を好む群が存在する。この群は乳用種牛肉を「おいしい」と感じるだけではなく、意識の上でも脂肪交雑度の高さ以外の品質を求めており、赤身型牛肉の販売ターゲットとして有望な可能性がある。

  • キーワード:乳用種牛肉、消費者、嗜好性、官能評価、クラスター解析
  • 担当:畜産研究部門・畜産物研究領域・食肉品質ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8684
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

国産乳用種去勢肥育牛肉(以下、「国産乳用種牛肉」)は、わが国の牛肉生産において量的に大きな割合を占めているが、品質としては脂肪交雑が比較的少ない「赤身型」であり、同じ「赤身型」である輸入牛肉との競合が懸念されている。そこで、国産乳用種牛肉を輸入牛肉と「食べてわかるちがい」を活用して差別化するために、わが国の消費者における国産乳用種育牛肉に対する嗜好性とその要因を明らかにし、どのような消費者をターゲットにするべきかを解明する。

成果の内容・特徴

  • 「焼く」調理を行った6種類の牛肉サンプルに対し、東日本在住の消費者307名が「好ましさ」を8段階(1=たいへん好ましくない~8=たいへん好ましい)で評価したデータをクラスター解析することで消費者を4群に分類できる(図1)。このうち、17.4%をしめる「第2群」は、乳用種牛肉を最も好む「乳用種牛肉嗜好群」である。このほか、データを詳細に解析した結果から、「第1群(23.5%)」は「脂肪交雑嗜好群」、「第3群(35.5%)」は「和牛嗜好群」、「第4群(24.1%)」は「やわらかさ嗜好群」と定義できる。なお、群間で年齢層や性別、地域について、統計的に有意な差は認められない(P>0.05)。
  • 第1群「脂肪交雑嗜好群」と第3群「和牛嗜好群」をあわせると59.0%が脂肪交雑度の高い和牛を好んでおり、わが国の消費者の多くは和牛嗜好であると考えられる。
  • 第2群「乳用種牛肉嗜好群」における外的プレファレンスマッピングの結果から、この消費者群は牛肉における「高すぎない脂肪交雑と特有のうま味等、および適度な歯ごたえ」を好んでいることがわかる(図2)。
  • 嗜好調査と同時に実施したアンケート調査結果によれば、第2群「乳用種牛肉嗜好群」は「日本の牛肉はしもふりが多すぎると思う」という意識が4群の中で最も高く(図3)、脂肪交雑以外の品質を意識の上でも求めていることが示唆される。
  • これらのことから、第2群「乳用種牛肉嗜好群」は、国産乳用種牛肉の生産および販売ターゲットとして有望と考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 本知見は国産乳用種牛肉の品質をどのような消費者に、どのようにアピールするか、その内容や対象の決定に活用可能であり、特に乳用種牛肉のブランド化に活用できる。
  • 本研究における調査対象とした消費者は札幌、帯広およびつくば周辺に在住する者であり、東日本のみの結果である。食肉に対する嗜好性には地域間差が存在することも考えられることから、特に西日本地域の消費者に本知見がこのままあてはまるかどうかについては注意が必要である。
  • 品質表示の内容やその表示方法のあり方については、別途検討が必要である。

具体的データ

図1 一般消費者307名を牛肉の嗜好性により4群に分類した結果;図2 第2群「乳用種牛肉嗜好群」の外的プレファレンスマッピング;図3 「日本の牛肉はしもふりが多すぎると思う」という設問に対する各消費者群の回答結果

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2013~2015年度
  • 研究担当者:佐々木啓介、大井幹記(道総研畜試)、名倉直登(北大院農)、本山三知代、成田卓美、大江美香、中島郁世、萩達朗、尾嶋孝一、小林美穂、野村将、室谷進、林武司(福岡農林試)、赤間京子(栃木酪畜セ)、藤川朗(道総研畜試)、宝寄山裕直(道総研畜試)、小林国之(北大院農)、西邑隆徳(北大院農)
  • 発表論文等:Sasaki K. et al. (2017) J. Sci. Food Agric. 97:3453-3462