プロバイオティクス投与マウスの小腸遺伝子発現のマイクロアレイ解析

要約

乳酸菌Lactobacillus rhamnosus GG株およびLactococcus lactis C59株の生菌を投与したBALB/cマウスの小腸マイクロアレイ解析により、投与菌株によって異なる遺伝子発現変動が見られる。GG株投与は小腸末端の免疫関連遺伝子群の発現を亢進する。

  • キーワード:乳酸菌、プロバイオティクス、マイクロアレイ、小腸、遺伝子発現
  • 担当:畜産研究部門・畜産物研究領域・畜産物機能ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8011
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

プロバイオティクスは菌種ではなく菌株特異的にその効果を発揮することが知られているが、その菌体の投与が宿主の遺伝子発現に与える影響については明らかになっていない。ヒト腸内細菌の総重量は約2kg、数は1012~1014個と言われているが、ヨーグルトなどで通常摂取する108~109個の乳酸菌によって宿主に効果を与えることができるのかという問いに対して明確な答えは得られていない。本研究は異なるプロバイオティック乳酸菌株(免疫賦活作用のあるLactobacillus rhamnosus GG(GG)および免疫調節作用のあるLactococcus lactis C59(C59))をBALB/cマウスに投与し、投与によって影響を受ける小腸の部位(上部と末端)、および投与菌数による遺伝子発現の違いをマイクロアレイ解析により明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 乳酸菌GGおよびC59の2週間経口投与がマウス小腸遺伝子発現に及ぼす影響を明らかにするため、マウス全遺伝子を搭載したマイクロアレイにより網羅解析する。
  • GGおよびC59の菌体1日当たり1×109CFU(Colony Forming Unit、菌数を表す単位)を投与し(n=5)、小腸上部および小腸末端の遺伝子発現を、乳酸菌投与を行っていないコントロールマウスと比較する。各生物学的プロセスに関与する遺伝子群ごとの比較により、投与菌株が影響を与える生物学的プロセスを検出できる。
  • 小腸上部においてGGおよびC59投与は共通してプラスミノーゲン活性化や線維素溶解など血液凝固にかかわる遺伝子群の発現を有意に抑制する(表1)。このように小腸上部では投与菌株による違いは見られないが、乳酸菌投与は遺伝子発現に有意な影響を及ぼす。
  • GGとC59を1×107CFU/日、1×108CFU/日、1×109CFU/日の3段階の菌数で投与した時、小腸末端においてGGの1×107CFU/日投与は対照群と比べて有意に脂質代謝関連遺伝子群を、GGの1×109CFU/日投与はB細胞関連遺伝子の発現を亢進する(表2)。これらの応答はC59投与では見られないことから、小腸末端では投与菌株や投与菌数によって異なる遺伝子応答が検出可能である。GG(1×109CFU/日以上)投与によるB細胞の活性化は、GGの免疫賦活作用を小腸遺伝子発現から補完するデータである。
  • GGとC59を3段階の菌数で投与した時の小腸末端の遺伝子発現データを用いた主成分分析により菌株や投与量に応じて異なる応答が図示できる(図1)。PC1に正に寄与する遺伝子およびPC3に負に寄与する遺伝子としてB細胞関連遺伝子群が見出され、GG投与の効果を特徴付ける遺伝子群であると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • マイクロアレイの発現データは「ニュートリゲノミクス機能性評価データベース」に搭載して、食品・プロバイオティクスの機能性評価研究に活用できる。
  • GG投与によりB細胞関連遺伝子など免疫応答遺伝子群の発現が亢進することから、GG投与はストレスによって誘導される現象(腸内菌叢やその代謝産物の撹乱等)を緩和する可能性がある。

具体的データ

図1 異なる菌数のC59またはGGを投与したマウスの小腸末端の遺伝子発現(PCA解析)

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(非破壊)、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2008~2017年度
  • 研究担当者:鈴木チセ、青木綾子、青木玲二、佐々木啓介、高山喜晴、水町功子
  • 発表論文等:Suzuki C. et al. (2017) PLOS ONE 12(12):e0188985