高精度かつ効率的な管水路流れの新たな計算手法

要約

本手法は、水撃圧を含む管水路流れの定常、非定常状態を、同一の手法により統一的に計算可能である。計算時間間隔を大きく取ることができ、それによる誤差の増大もないため、非常に有用な手法といえる。

  • キーワード:管水路、定常計算、水撃圧計算、CIP法、SMAC法
  • 担当:農村工学研究部門・水利工学研究領域・沿岸域水理ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7569
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

管水路流れの計算では、定常状態はエネルギー方程式、非定常状態は連続式と運動方程式を用いる計算が行われており、実務においては計算対象に応じて両者を使い分ける必要がある。定常状態は非定常な過渡現象が収束した状態とみなせるため、本来、これらは同一の方法で計算されることが望ましいが、既存の非定常計算では、定常状態に収束するまでに多くの時間を必要とする。また、非定常計算に用いる標準的な陽解法では、計算の安定条件(CFL条件)を満たす時間間隔Δtで計算を進めていくものの、たとえCFL条件の範囲内であっても、Δtを大きく取ると計算精度が低下する。したがって、計算精度を落とすことなく、Δtを大きく取れる手法が開発されれば、複雑かつ大規模な管水路システムの管理運用を担う技術者にとって、非常に有用な手法となる。

成果の内容・特徴

  • 本手法(CIP-SMAC法)では、連続式、運動方程式を移流段階と非移流段階に分け、移流段階では高次精度の解法であるCIP法を、非移流段階では半陰解法でありCFL条件を緩和できるSMAC法を用いる。一般の陽解法では、Courant数が1より小さいΔtを用いなくてはならないが、本手法ではそれを超えても計算可能であり、かつΔtによらず高精度に計算できる。
  • 図1に示すモデル管水路において、静水位44.2mから末端水位を徐々に0.0mまで下げ、各地点の圧力変動が収束した状態を定常状態とみなし、エネルギー方程式に基づく定常計算結果と比較する。
  • Δtごとの相対誤差(図2)を見ると、既存の非定常解析手法であるLeap-Frog法、CIP-中心差分法は、Δtを大きく取ると誤差が増大し、Δt=0.2(s)では計算不能となる。また、Δtによって精度が大きく異なる。
  • 本手法は、Δtに関わらず良好に一定の精度を保っている。ただし、本手法と類似の移流項省略-SMAC法は、移流項を省略した分だけ本手法に比べて精度が悪い(図2)。よって、移流段階に高次精度のCIP法、非移流段階に半陰解法のSMAC法を用いる本手法は、極めて有効である。
  • モデル管水路の弁を10秒間で閉鎖した場合の水撃圧計算結果において、既存のLeap-Frog法では、数値誤差によると思われる高周波の圧力振動が見られるが、本手法は安定的に計算できている(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 過渡流れから定常状態を計算するにあたっては、精度を保ったままΔtを3倍程度大きくできるため、計算効率が向上する。また、変動する水利用状況を速やかに再現可能であるため、圧力分布や流量などの把握に有効である。
  • 水撃圧計算において、Leap-Frog法は本手法より大きなピークが出現する。したがって、設計においてLeap-Frog法は安全側となるが、過大設計となる危険もある。
  • 本手法は完全陰解法ではないため、Δtには制限がある。

具体的データ

図1 モデル管水路の概略図?図2 定常計算結果-Δtごとの相対誤差の絶対値の全線平均値-?図3 定常状態から10秒で弁を閉鎖した場合の8,000m地点の水撃圧解析結果

その他

  • 予算区分:その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2015年度
  • 研究担当者:安瀬地一作、木村匡臣(東京大学)、中矢哲郎、桐博英
  • 発表論文等:安瀬地ら(2016)農業農村工学会論文集、302(84-2):I_85-I_91