農業農村整備・小水力発電事業の経済・環境評価のためのWEBアプリケーション

要約

行政機関などの実務者が、総事業費などの限られた情報から、農業農村整備事業や小水力発電事業の経済波及効果と温室効果ガス排出量の統合的な評価を、都道府県および市町村レベルで、WEB上で簡便に行えるツールである。

  • キーワード:経済波及効果、公共事業、気候変動、産業連関分析、再生可能エネルギー
  • 担当:農村工学研究部門・地域資源工学研究領域・資源評価ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

農業農村整備事業や小水力発電事業などを実施する際に、農業や建設業のみならず経済全体への便益を明らかにすることがより一層求められており、事業の経済波及効果を定量的に評価・開示していくことが重要になっている。また、これら事業においても地球温暖化問題への対応が期待されており、簡易な温室効果ガス(GHG)排出量の算出手法が求められている。そこで、行政機関やNPO等の実務者が、簡便かつ統合的に、農業農村整備事業や小水力発電事業の経済波及効果や温室効果ガス排出量を評価できる「経済波及効果・環境影響評価ツール」を開発する。

成果の内容・特徴

  • 農業土木事業投入調査などの統計資料から、農業農村整備事業10工種(開水路、管水路、トンネル・暗渠、ポンプ場(機械設備)、同(建屋)、取水施設、貯水施設、ため池、農地整備・保全・防災、その他)の建設段階、および小水力発電事業(規模別に小水力、マイクロ水力に分類)の建設・運用各段階の投入構造を新たに推定し、既往の都道府県間産業連関表にデータベースとして組み込み済みである。このことにより、事業の経済波及効果(生産誘発額、付加価値誘発額、雇用誘発者数)およびGHG排出量を、都道府県レベルで簡便に計測できる(図1)。さらに、地域シェア法を援用することにより、事業を実施する市町村レベルでの波及効果も推定できる(図1)。
  • 上記の各計測項目について、一般に広く行われている後方連関効果(事業に投入する原材料・サービスの生産に伴い、いわゆる上流産業へ波及する効果)の計算に加えて、家計内生化モデルを用いた所得連関効果(家計の所得・消費の増加を通じた波及効果)の計測も可能である。
  • 農業農村整備事業(建設段階)と発電施設の建設事業については、ユーザーは、事業を実施する都道府県、総事業費・用地補償費および事業工種を入力するだけで、各種波及効果の計測ができる(図1)。一方で、ユーザーが、建設事業の工法をより詳しく反映した波及効果、または事業で建設した施設の運用段階の波及効果を計測したい場合は、ユーザー自身が調査した産業部門別の投入額(または最終需要額)を入力して計算することが可能である(図1)。このような作業を、農研機構のホームページから参照可能なウェブサイト上で、対話形式で行う(図2)。
  • 本ツールを用いて分析すると、例えば、北海道で開水路の建設工事を行った場合、全国への総生産誘発額4.23のうち、北海道内への波及は2.56(全体の60%)であることがわかる(表1)。あるいは、小水力発電(運用)事業のGHG排出量(後方連関)は0.34(ton-CO2eq)であり(表1)、これを一般の電力部門と比較すること等により、小水力発電事業のGHG排出削減効果を求めることができる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:国・都道府県・NPO等で農業農村整備事業等の計画策定に携わる実務者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国で年間およそ10地区
  • その他:ツールの具体的な使用方法や理論的背景などについては、農研機構研究報告を参照されたい。

具体的データ

図1 ユーザーによるデータ入力手順の概略;図2 入力・出力画面の例;表1 波及効果の分析例:北海道での開水路建設事業・小水力発電(運用)事業


その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:上田達己、國光洋二、遠藤和子
  • 発表論文等:
  • 1)Ueda T. and Kunimitsu Y. (2017) Asia-Pac. J. Reg. Sci. 1(2):399-426
    2)上田、國光(2018)農研機構研究報告農村工学研究部門、2:81-103
    3)農研機構(2018)「経済波及効果・環境影響評価ツール」
    http://kinohyoka.jp (2018年4月12日)