スマートフォンにより現場での災害対応に活用できる「ため池防災支援システム」

要約

ため池での現場対応や緊急対策に活用するためのスマホ版「ため池防災支援システム」である。ユーザーインターフェースを一新させ、過去の災害情報の閲覧などの新たな機能も追加し、自治体が視覚的に使いやすいシステムにしている。

  • キーワード:ため池、スマートフォン、災害情報システム、情報共有、緊急対策
  • 担当:農村工学研究部門・施設工学研究領域・土構造物ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

2017年にプロトタイプを開発した「ため池防災支援システム(以下、旧システムとよぶ)」は、地震、豪雨時にため池の決壊危険度を予測するとともに、実際の被害状況を全国の防災関係者間で情報共有する災害情報システムである。旧システムは2017年度から試験稼働を実施しているが、情報閲覧をPCで行い、現地での災害報告のみをスマートフォンで行う仕様であった。このため、現地でスマートフォンによる情報を閲覧しながら同時に災害報告を行いたいとの要望が多く寄せられていた。また、リアルタイム予測のみのシステムであったため、夜間に発生した過去の災害情報を翌朝、閲覧することができないという問題があった。このため、全国のユーザーからアンケートを収集し、新たな機能追加やユーザーインターフェースの抜本的な改良を行うことによって、自治体が使いやすい新しいため池防災支援システム(以下、新システムとよぶ)を開発する。

成果の内容・特徴

  • 新システムは、スマートフォンやタブレットに最適化されたWebブラウザで閲覧・入力するシステムである。災害時にため池の現地やその周辺で、決壊危険度や点検優先順位の情報を閲覧することによって、危険なため池の迅速な被害把握と報告が可能である。自治体が現場で視覚的に使いやすいインターフェースとなっている(図1)。
  • 新システムの被害報告システムは、堤体の損傷などの被害状況や現地で撮影した被害写真を全国で閲覧して情報共有し、多機関で連携して災害対応を行うことができる掲示板機能やチャット機能を持つ。また、ナビ機能を有しており、遠方からの災害支援者のため池現地へのアクセスを支援することができる(図2)。
  • 新システムでは、スマホ版だけでなくPC版のシステムも含めて、氾濫想定図、土砂災害危険区域、避難所等とため池名称を同時に表示したり、危険ため池のリストを表示したりすることが可能である。PC版ではリストのCSVファイル取り込みや地図画面の印刷も可能である(図3)。また、4.~7.のような基本機能の改良を実施している。
  • 旧システムは現在時刻から6時間後までの決壊危険度を予測、表示していたのに対し、新システムでは、現在時刻から15時間後までの予測が可能である。深夜や明け方に豪雨が予想される場合でも、この予測を用いて夕方明るいうちに緊急対策を行うことが可能である。さらに、未来の予測だけでなく、現在時刻から一週間前までの過去の情報も閲覧することができ、夜間に発生した災害に対して翌朝に情報を閲覧して緊急対応ができる。決壊等の大きな被害が発生した災害では、半年から1年の間、災害時の情報を閲覧することが可能であり、この情報を災害復旧に活用できる。
  • システムにメールアドレスが登録されたユーザーに、地震時、豪雨時におけるため池の決壊危険度情報を自動的にメール配信することができる。
  • ため池に貯水位や雨量のセンサーを設置することにより、データを自動的にシステムに取り込んで、精度の高い貯水位予測や危険度判定を行うことが可能である(図1)。
  • 新システムでは、簡易氾濫解析機能、豪雨時の安全性診断、地震時の簡易耐震診断機能などの解析機能を簡便に行うことができる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:国、自治体、ため池管理者、土地改良技術連合会、民間コンサルタント
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:ため池がある全国の地域、農林水産省本省・地方農政局、47都道府県、約1200市町村、約10万箇所のため池管理者
  • その他:2019年度から本格稼働を予定。「ため池情報支援システムへのアクセスには、IDとパスワードが必要である。(ため池防災に関わる国、自治体の行政機関には配布済み)

具体的データ

図1 画面がスマホに最適化され、ため池現地で使いやすくなったスマホ版「ため池防災支援システム」,図2 被害報告システム,図3 改良されたPC版の表示

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2018年度
  • 研究担当者:堀俊和、泉明良、鈴木尚登(日立造船株式会社)、正田大輔、重岡徹、梶原義範、吉迫宏、上野和広(島根大学)、堀部幸祐(株式会社コア)、古島広明(株式会社オサシ・テクノス)、矢﨑澄雄(株式会社複合技術研究所)、安芸浩資(ニタコンサルタント株式会社)
  • 発表論文等:堀ら(2019)Journal of Disaster Research 14(2):303-314