適品種を用いた露地電照栽培による夏秋小ギクの計画生産技術

要約

電照処理による花芽分化抑制効果の高い品種を用い、生産地域での自然開花期および作型ごとの電照終了からの到花日数の情報に基づき電照処理を行うことで、夏秋小ギクの需要に対応した計画的な切り花生産は可能になる。

  • キーワード:小ギク、電照栽培、開花調節、日長反応、短日植物
  • 担当:野菜花き研究部門・花き遺伝育種研究領域・ゲノム遺伝育種ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6811
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

キクの施設栽培では、光周性を利用した電照栽培が一般的であるが、夏秋期の小ギクでは、電照栽培がほとんど行われていない。現在は自然開花期の異なる多品種を栽培することで、盆および秋彼岸の大需要期に対応している。しかし、近年激しい気象変動の影響で開花期の変動が大きくなり、計画的に出荷できない事例が多発している。
キクは短日植物であり、電照による暗期中断で花芽分化を抑制できる。そこで、露地電照栽培による開花調節に適した日長反応性をもつ夏秋小ギク品種を選抜することで、夏秋小ギクの計画生産が可能となる電照栽培作型を開発する。

成果の内容・特徴

  • 夏秋小ギクの需要期に応じた計画的な切り花生産は、品種ごとに電照栽培作型を計画することで可能になる(図1)。
  • 計画的な切り花生産のためには、電照反応性(電照処理による花芽分化抑制効果)の高い品種を用いることに加え、あらかじめ生産地域における品種ごとの自然開花日および到花日数(電照終了から開花までの日数)の情報を把握する事が必要である。
  • 夏秋小ギクの電照反応性には大きな品種間差がある。夏秋期の電照栽培用として全国で栽培されてきた輪ギク品種「岩の白扇」および「精雲」を基準とし、これら品種より電照条件下での発蕾が遅い夏秋小ギク品種は、電照反応性が高い品種と分類される(表1)。
  • 露地栽培では自然開花期より開花を早めることは困難であるため、品種選択にあたっては、その地域での自然開花期が計画開花日より早い品種を用いる。
  • 電照終了から開花までの日数(到花日数)は、品種ごとに決まった値となるが、地域および作型によって変動する(表2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:夏秋小ギク生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:東北地方など需要期集中型の夏秋小ギク産地を中心に、秋田県、宮城県、福島県、茨城県、富山県、岡山県、長崎県、沖縄県で公設試験研究機関などでの適応試験を経て、産地への技術拡散が始まっている。
  • その他:
  • 1)具体的な品種選択の事例として、岡山県南部での電照栽培による7~9月出荷のためには、表1の品種より自然開花期が7月10日以前である品種を利用する。白色品種では「さぬき」、「精しずえ」、「精しらいと」、赤色品種では「ちづる」、「精ちぐさ」、黄色品種では「精こまき」、「はるな」、「ほたる」、「はるか」、「すばる」が適する。
    2)2016年の福島県での電照栽培の実証試験では、盆および秋彼岸の需要期出荷率が高まり、慣行栽培と比較して所得(自家労賃除く)が15.6%向上した事例がある。
    3)福島県での実証試験における試算では、電照栽培のための年間経費(電照設備の減価償却および電力料金)は、10aあたり約138,000円である。
    4)電照は75W白熱電球を用いて、縦横1.4~3m間隔・高さ1.5~2mに設置し、22時から4時まで実施した結果である。

具体的データ

図1 電照栽培の作型イメージ図;表1 夏秋小ギク25品種の自然開花日および電照下での発蕾開始日;表2 露地電照栽培作型における到花日数と地域間差


その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)、競争的資金(農食事業)、その他外部資金(地域再生)
  • 研究期間:2008~2017年度
  • 研究担当者:住友克彦、久松完、中野善公、小田篤、道園美弦、森義雄(岡山農総セ)、藤本拓郎(岡山農総セ)、鈴木安和(福島農総セ)、鈴木詩帆里(福島農総セ)、高田真美(福島農総セ)、熊谷千敏(福島農総セ)、矢吹隆夫(福島農総セ)、矢野志野布(イノチオ精興園株式会社)、小川貴弘(イノチオ精興園株式会社)、廣瀬信雄(イノチオ精興園株式会社)、山形敦子(秋田農試)、横井直人(秋田農試)、間藤正美(秋田農試)、村﨑聡(茨城農総セ)、田附博(茨城農総セ)、永井永久(茨城農総セ)、常見高士(茨城農総セ)、駒形智幸(茨城農総セ)、本図竹司(茨城農総セ)
  • 発表論文等:
  • 1)森ら(2017)園学研、16(1):27-39
    2)Sumitomo K. et al. (2014) J. Hort. Sci. Biotech. 89(6):647-654
    3)Sumitomo K. et al. (2013) J. Hort. Sci. Biotech. 88(3):361-367
    4)小田ら(2010)園学研、9(1):93-98