転写因子ANAC046は葉や花弁におけるクロロフィルの分解に関与する

要約

シロイヌナズナの転写因子ANAC046は、クロロフィルの分解や葉の老化に関連した遺伝子の発現を促進する。ANAC046のキメラリプレッサー遺伝子をペチュニアに導入すると、花弁のクロロフィル分解が抑えられ、形質転換体の花弁が淡緑色になる。

  • キーワード:転写因子、ANAC046、クロロフィル、老化
  • 担当:野菜花き研究部門・花き遺伝育種研究領域・ゲノム遺伝育種ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6805
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

クロロフィルは光合成の中心的役割を果たし、植物の成長に必要不可欠な緑色色素である。老化時の葉や開花時の花弁では、クロロフィルの劇的な分解が起こる。クロロフィル分解の制御機構を明らかにすることにより、品種固有の花色の発現や緑花品種の育種の面で、将来的な社会実装を見通すことが出来る。
クロロフィルの分解に関わる酵素は大半が同定され機能解析が進んでいるが、それらの酵素遺伝子の発現制御機構に関しては未解明な点が数多く残されている。そこで本研究では、クロロフィル分解酵素遺伝子群の包括的な発現制御に関与する転写因子を明らかにすることを目的に、酵素遺伝子のプロモーター領域に結合する転写因子をイーストワンハイブリッド法により探索し、その機能を解析する。

成果の内容・特徴

  • シロイヌナズナの転写因子ライブラリーを用いたイーストワンハイブリッド法によるスクリーニングにおいて、転写因子ANAC046は複数のクロロフィル分解酵素遺伝子(non-yellow coloring 1stay-green 1 (SGR1)、SGR2およびpheophorbide a oxygenase)のプロモーター領域に結合活性を示す。
  • ANAC046遺伝子を破壊したノックアウト変異体(KO)およびANAC046遺伝子にSRDX配列(機能抑制ドメイン)を付加したキメラリプレッサーを導入した変異体(SRDX)では、いずれも野生株(WT)と比較してクロロフィル量が増加し(図1)、老化が遅延する。一方、ANAC046過剰発現体(OX)ではクロロフィル量が減少し、成長が著しく阻害され(図1)、老化が早まる。
  • マイクロアレイ解析の結果、WTと比較すると多くのクロロフィル分解酵素や老化関連の遺伝子の発現量がOXで高く、KOやSRDXで低い(図2)。
  • ANAC046のSRDXキメラリプレッサー遺伝子をペチュニアに導入すると、花弁におけるクロロフィル分解酵素遺伝子の発現が抑えられ、クロロフィル量が増加し、淡緑色になった形質転換体が得られる(図3)。OXでは花弁のクロロフィル量が減少する(図3)。
  • ANAC046は一連のクロロフィル分解酵素や老化関連の遺伝子の発現量を増加させる方向に働く転写因子であると考えられる。また、ペチュニア花弁においてもANAC046に類似の転写因子が存在し、クロロフィル分解の制御に働いていると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 転写因子ライブラリーは、転写因子のcDNAのみで構成された遺伝子ライブラリーである。これを用いることで、イーストワンハイブリッド(特定のプロモーター領域に特異的に結合する転写因子を探索する方法)を効率よく行うことが出来る。
  • 転写因子遺伝子の3'末端にSRDX配列を付加したキメラリプレッサー遺伝子を導入すると、その転写因子および機能が重複する転写因子の働きを抑制する効果が得られる(Hiratsu et al. Plant J. 34: 733-739, 2003)。

具体的データ

図1 ANAC046変異体の表現型;図2 シロイヌナズナANAC046変異体のマイクロアレイによるクロロフィル分解酵素;図3 ANAC046遺伝子を過剰発現(OX)または機能抑制(SRDX)したペチュニアの花(a)とクロロフィル量(b)およびクロロフィル分解の鍵酵素遺伝子(SGR)の発現量(c)

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2013~2017年度
  • 研究担当者:大宮あけみ、小田(山溝)千尋、光田展隆(産総研)、坂本真吾(産総研)
  • 発表論文等:
  • 1)Yamamizo et al. (2016) Sci.Rep. 6:23609
    2)Yamamizo et al. (2017) Plant Mol.Biol.Rep. 35:611-618