ペチュニアの転写因子PhCOL16は花冠におけるクロロフィル生合成を促進する

要約

転写因子遺伝子PhCOL16の過剰発現コンストラクトをペチュニアに導入すると、花冠におけるクロロフィル生合成酵素遺伝子の発現が上昇する。その結果、得られた形質転換体は花冠のクロロフィル量が増加し、淡緑色となる。

  • キーワード:転写因子、PhCOL16、クロロフィル、生合成、ペチュニア
  • 担当:野菜花き研究部門・花き遺伝育種研究領域・ゲノム遺伝育種ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6805
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

クロロフィルは光合成において重要な役割を果たす色素で、葉や茎などの緑色組織には多量に蓄積している。一方、花弁では鮮やかな花色を発現するためにクロロフィルを貯めないしくみが働いている。しかし、葉と花弁においてクロロフィルの蓄積量の違いが生じているメカニズムに関して、科学的な知見は乏しい。
キクのCONSTANS-like (COL)遺伝子ファミリーに属する転写因子遺伝子COL16は、組織のクロロフィル量と同調して発現し、白色花弁ではきわめて低く、葉や緑色花弁では高い傾向にある(BMC Plant Biol.(2017)17:202)。したがって、COL16の発現量が低いことが、花弁においてクロロフィル量が少ない要因のひとつとなっている可能性が考えられる。本研究では、ペチュニア花冠におけるPhCOL16の機能を明らかにすることを目的に、PhCOL16の過剰発現コンストラクトを導入し、表現型を解析する。

成果の内容・特徴

  • ペチュニア品種の緑色花冠に含まれるクロロフィル量は201nmol/gFWで、白色花冠の2.9~4.5倍、黄色花冠の14.6~18.8倍である(図1)。葉には緑色花冠の8.6倍のクロロフィルが含まれている。
  • PhCOL16は、葉や緑色花冠では高発現しているが、白色花冠における発現は極めて低い(図1)。
  • PhCOL16 過剰発現体(OX)の花冠におけるPhCOL16の発現量は、野生型(WT)の2.0~5.9倍である。OX花冠におけるクロロフィル量はWTの1.9-3.2倍に増加し、淡緑色を呈する(図2)。
  • OX花冠におけるクロロフィル生合成酵素遺伝子の発現は、WTより高い傾向にある(図3)。特にクロロフィル生合成の鍵酵素の一つであるCHLM(Mg-protoporphyrin IX methyltransferase)の発現はすべてのOX系統で有意に高い。また、HEMA(glutamyl-tRNA reductase)、CHLG(chlorophyll synthase)、およびCAO(chlorophyllide a oxygenase)はOX花冠におけるPhCOL16の発現と相関して発現している。
  • 以上の結果から、PhCOL16はクロロフィルの生合成を促進する働きのある転写因子であると考えられる。白色花冠においてクロロフィルの蓄積量が少ないのは、PhCOL16の発現が低いことが要因のひとつと考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 緑色花冠では、PhCOL16の発現が上昇することで、クロロフィル生合成が促進され、クロロフィルの蓄積量が増加すると考えられる。PhCOL16発現上昇の仕組みを明らかにすることができれば、効率的な緑花品種育種の技術開発に大きく貢献することができる。

具体的データ

図1 ペチュニア品種の花冠および葉(A)におけるクロロフィル量(B)およびPhCOL16発現量(C),図2 PhCOL16過剰発現体の花(A)、花冠におけるPhCOL16の発現量(B)およびクロロフィル量(C),図3 PhCOL16過剰発現体におけるクロロフィル生合成酵素遺伝子の発現

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:大宮あけみ、小田(山溝)千尋、岸本早苗
  • 発表論文等:Ohmiya A. et al.(2019)Plant Sci. 280:90-96