土地利用情報を用いた被害予測モデルによる斑点米被害ハザードマップ

要約

アカスジカスミカメが加害主体の斑点米被害について、農地とその周辺の土地利用情報から作成した被害予測モデルからハザードマップを作成することで、害虫発生量を調査することなく土地利用(=作付状況)のみを利用して被害発生リスクを可視化できる。

  • キーワード:斑点米カメムシ、被害予測、地理情報システム、農地周辺環境
  • 担当:東北農業研究センター・生産環境研究領域・病害虫グループ
  • 代表連絡先:電話019-643-3483
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

害虫による被害対策のためには、作物被害リスクを可視化して被害の起こりやすい地域や圃場を事前に特定することが重要である。これによりどのような対策を優先すべきか、また限られた労力をどのように配分すべきかが把握可能となる。最近の研究から、害虫の発生数や作物被害は発生源の量や空間的配置といった土地利用に影響されることが示されている。斑点米被害を起こすカスミカメムシ類は半径300m程度の範囲内にある牧草地やイネ科雑草地といった発生源面積の多少によって水田での発生量が左右されることが知られているため、この関係を利用して土地利用と斑点米被害の関係を統計モデル化し、ハザードマップを作成して被害リスクを可視化する。具体的には、アカスジカスミカメが主体となる地域における斑点米被害予測のためにアカスジカスミカメ発生量と農地周辺の土地利用を解析してハザードマップを作成し、被害発生リスクの高い地域を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 斑点米被害を予測する最適な統計モデルは土地利用(調査地点から半径300m以内にある水稲、ダイズ、牧草、イネ科雑草(そのうち牧草+イネ科雑草は発生源と表記する))で構成され、アカスジカスミカメ捕獲数は予測因子に入らない(データ省略)。特に、発生源面積は統計的に有意に斑点米被害に影響する(図1)。
  • 斑点米被害予測モデルによる予測値と実測値の関係(図2)から、ある水田で玄米の格付けが1等級(斑点米率≦0.1%)になるかどうかの正答率は72%である(表1)。モデルの予測精度の指標値であるROC曲線下面積値は0.80であり、予測精度は中程度と判断され、被害予測に実用的である。
  • 調査地周辺の25×15kmの範囲の農地を目視判別した土地利用地図(図3a)から斑点米被害のハザードマップを作成すると、679区画のうち被害発生リスクの高い300区画が抽出される(図3b)。これにより被害対策が優先されるべき場所が明確になり、労力の効率的な配分が可能になる。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は一地域で得られた結果であり、イネ品種はひとめぼれのみが対象、斑点米カメムシ防除は1回の水田で統一している。薬剤散布回数の違いや他品種、他地域での適用可能性については今後検討が必要である。
  • 水田内部にイネ科やカヤツリグサ科雑草がある場合は被害の発生様相が異なるため、本被害予測モデルやハザードマップの対象とはならない。
  • 調査地域ではイネ科雑草が繁茂したダイズ圃場が散見され、被害予測モデルでは斑点米被害増加への影響に有意傾向があった(一般線形混合モデル,p=0.071)ことから、ダイズ圃場のイネ科雑草管理も被害発生要因として留意すべきである。
  • 被害発生リスクに応じた薬剤散布回数設定に応用可能である。

具体的データ

図1 発生源面積率と斑点米率の関係;図2 モデルによる斑点米率予測値と実測値;表1 統計モデルによる2等以下格付けの正答率;図3 圃場の作付状況地図(a)と斑点米被害のハザードマップ(b)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2017年度
  • 研究担当者:田渕研、髙橋明彦、榊原充隆、安田哲也、村上太郎(岩手防除所)、奥寺繁(北教大旭川)、降幡駿介(国環研)
  • 発表論文等:Tabuchi K. et al. (2017) Agric. Ecosyst. Environ. 249:4-11