アンモニアガス回収で製造した液体硫安の水田への簡易で均一な流入施肥技術

要約

堆肥化過程で発生するアンモニアガス回収に由来する液体硫安を水田に簡易でかつ均一に流入施肥するためには、水口に波板等で仕切り壁を設置し、一定の高さに設置した容器中の液体硫安をサイフォン方式でチューブにより流下し、用水と混和して施用する。

  • キーワード:水稲、液体硫安、窒素肥料、アンモニアガス回収、流入施肥
  • 担当:農研機構東北農業研究センター・水田作研究領域・水田作グループ
  • 代表連絡先:電話019-643-3556
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

家畜ふん尿の堆肥化過程において発生するアンモニアガスを硫酸と反応させて回収し、環境負荷を軽減しながら窒素肥料として利用可能な液体硫安を製造する技術が開発されている。近年生産が奨励されている飼料用米生産に液体硫安を活用することで耕畜連携の経済的効果、温室効果ガス削減効果を一層高めることができる。現在、液体硫安を水田に一定速度で流入施肥するには専用器具が必要なため、入手が容易な物品で簡易に、なおかつ均一に流入施肥可能な技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 液体硫安は、一定の高さに設置した衣装ケース等容器に入れ、サイフォン方式によりチューブで流下する(図1左)とほぼ一定速度で流下できる(図1右)。
  • 水口付近を波板等で囲むように仕切り壁を設置し、用水と液体硫安とを水口で混和してから流入させる(図1左)。また、水田の表面水はほぼなく、流入施肥後に湛水状態を保ちやすい圃場条件で実施する。所要量の液体硫安の流入施肥を完了した後すぐに用水の流入を止める。これらにより、施用した液体硫安の圃場内分布が均一化する(図2)。
  • 必要な液体硫安量は、投入したい窒素量を基に表1Aに示す早見表により決定できる。
  • 液体硫安と田面水もしくは水田側のチューブの先との最大高低差が110cmの場合において、表1Bに示す早見表により必要なチューブ(内径4mm)の本数を決定する。表1Bの液量より必要な液体硫安量が少ない場合は加水し、多い場合は流し込み時間をやや延長する。なお、表1Bの目標時間は、当該圃場に用水を流し込み、十分な湛水深(少なくとも圃場全体で平均して5~6cm、浅い部分でも2~3cm)が得られるのに要する時間である。
  • 上述した方法により、概ね設定通りの時間で液体硫安を流入施肥できる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • アンモニアガス回収方法は公表されているが、液体硫安は市販されていない。液体硫安を肥料として登録しない場合は、耕畜が同意の上での自家利用に限る。
  • 均一施用のために、圃場は均平であることが望ましい。
  • 水田に用水を入れて十分な湛水深が得られるのに要する時間を事前に把握しておく。
  • 中干し直後のような土壌が過乾燥の水田で流入施肥すると、減水深が大きいために用水とともに液体硫安も流亡して十分な肥効が得られない場合があることから、一度水を入れるなどして湛水が保てる圃場条件にした後、表面水がほぼない状態で流入施肥する。
  • 窒素濃度の高い液体硫安を用水で希釈して利用する場合や液体硫安を流入させる所要時間調整のために加水する場合は、流入施肥時に気泡がチューブ内に付着して流入速度が低下することを防ぐために、流入施肥の前日に加水して圃場に置いておく。

具体的データ

図1 簡易なサイフォン方式による液体硫安の流入施肥の様子(左)と流下量(右);図2 水口における液体硫安と用水との混和処理の有無が液体硫安の圃場内分布に及ぼす影響;表1 液体硫安施用のための早見表;表2 飼料用米生産圃場における液体硫安の流入施肥の事例

その他

  • 予算区分:競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2015~2017年度
  • 研究担当者:大平陽一、西田瑞彦、工藤洋晃、福重直輝、高橋智紀、白土宏之、小野寺敬一(一関市)、小野寺豊(一関市)、勝部忠志(一関市)、菊池公一((株)フリーデン)
  • 発表論文等:
  • 1)工藤ら(2017)土肥誌、88(5):447-452
    2)農研機構(2018)「飼料用米生産における豚排泄物由来肥料の製造・活用マニュアル」http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/pub2016_or_later/pamphlet/tech-pamph/080326.html (2018年3月23日)