カリ固定土壌においてもカリ施用はそばへの放射性セシウム移行低減に有効

要約

カリ固定土壌では、施用されたカリがバーミキュライトの層間に固定されるため、土壌の交換性カリ含量が高まりにくい。しかし、層間に固定されたカリは植物可給性であるため、カリ固定土壌においてもカリ施用は放射性セシウム移行低減に有効である。

  • キーワード:カリ固定、交換性カリ、そば、バーミキュライト、放射性セシウム
  • 担当:東北農業研究センター・農業放射線研究センター・水田作移行低減グループ
  • 代表連絡先:024-593-1310
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

そばへの放射性セシウム移行を低減させるためには、カリ肥料の施用により土壌の交換性カリ含量を30mg/100gに高めることが推奨されている。しかしながら、カリ肥料を施用しても交換性カリ含量がわずかしか高まらない土壌が、畑地や草地で散見される。施肥されたカリの挙動には土壌中の粘土鉱物が強く影響し、粘土鉱物の1グループであるバーミキュライトに富む土壌では、施用されたカリのうち多くの部分が酢酸アンモニウムでは抽出されない形態のカリとして保持(カリ固定)される。しかし、このようなカリは植物に利用されやすいことが知られており、非交換性カリと呼ばれる。交換性カリに加え、非交換性カリも作物への放射性セシウム移行に寄与することが明らかにされており、カリ固定により交換性カリ含量が高まらない土壌においても、カリ肥料施用は有効な移行低減対策であることが考えられる。そこで本研究では、畑地や草地で散見される交換性カリが高まらない土壌が、バーミキュライトに富むカリ固定土壌であるかを明らかにするとともに、このような土壌に対するカリ施用の有効性を検討する。

成果の内容・特徴

  • バーミキュライトを主たる粘土鉱物として含むバーミキュライト質土壌(土壌A)と、スメクタイトや2:1-2:1:1型中間種鉱物を主たる粘土鉱物として含むスメクタイト質土壌(土壌B)を比較する(表1)。
  • スメクタイト質土壌ではカリ施用により交換性カリ含量が目標レベル付近まで高まるが、バーミキュライト質土壌ではわずかしか高まらない(図1)。
  • ポット試験における、かん水時のポット底面排水のカリウム濃度は、スメクタイト質土壌に比べバーミキュライト質土壌で低い(図2)。そのため、溶脱はバーミキュライト質土壌において交換性カリがわずかしか高まらなかった理由ではない。
  • バーミキュライト質土壌では、カリ施用により玄そばへの放射性セシウム移行が顕著に低減する(図3)。また、圃場試験においてスメクタイト質土壌では栽培後期に交換性カリ含量が減少するが、バーミキュライト質土壌では非交換性カリの放出により交換性カリ含量が維持される(図1)。ポット試験においても、そばによる吸収にともなう底面排水カリウム濃度の低下の度合いは、バーミキュライト質土壌で小さい(図2)。バーミキュライト質土壌においては、交換性カリのみならず非交換性カリも移行低減に寄与することが強く示唆される。

成果の活用面・留意点

  • カリ溶脱により交換性カリが高まりにくい土壌では、カリ固定土壌とは異なりカリ施用の効果が低いと考えられる。
  • 土壌改良資材として流通している南アフリカ産バーミキュライトは多量の非交換性カリを含むため、カリを固定せず、非交換性カリを放出することにより作物への放射性セシウム移行低減に寄与することが知られている。

具体的データ

表1 土壌の土性および粘土鉱物組成;図1 圃場試験における交換性カリの推移;図2 ポット底面排水カリウム濃度の推移;図3 圃場試験における栽培後土壌の交換性カリとそばへの放射性セシウム移行係数の関係

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(営農再開)、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2014~2017年度
  • 研究担当者:江口哲也、久保堅司、藤村恵人、平山孝(福島県農総セ)
  • 発表論文等:Kubo et al.(2018)Soil Sci. Plant Nutri. 64(2):265-271
  • DOI:10.1080/00380768.2017.1419830