東北地方北部におけるセット球を用いたタマネギ初冬どり新作型に適した栽培条件

要約

東北地方北部において、タマネギ極早生品種のセット球を8月12日頃に定植することにより、暖地のセット球を利用した慣行作型に比べて1ヶ月程度早い11月に生食用タマネギを収穫することができる。被覆マルチの種類は白黒マルチの利用が適する。

  • キーワード:生食用タマネギ、初冬どり作型、セット栽培
  • 担当:東北農業研究センター・畑作園芸研究領域・露地野菜グループ
  • 代表連絡先:電話019-643-3547
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

東北地方では、高収益生産が可能な野菜品目の水田輪作体系への導入や地元産タマネギの供給期間の拡大が求められている。そこで、高単価での取引が期待される冬どりの生食用タマネギ生産に着目し、セット球利用によるタマネギ初冬どり作型の開発を行う。セット球を用いた冬どり作型は主に九州地方等の暖地で導入されているが、東北地方における導入例がほとんどないため、基本的な栽培条件の検討が必要である。そこで東北地方北部に適したマルチの種類及び定植時期を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 東北地方における初冬どり作型は、3月にセルトレイに播種後、無加温ハウスで5月まで育苗し、球径が約2cmに肥大したタマネギ小球(セット球、図1)を貯蔵し、8月にセット球を定植して11月に収穫する(表1)。本作型では、含水率が高くサラダ等の生食用に向く極早生品種を用い、暖地における慣行の冬どり作型よりも1ヶ月程度早く収穫できる。
  • 本作型において、緑及び黒マルチよりも白黒マルチ(白色面が表)を用いた場合に特に夏季の日平均地温が低く推移する結果(図2)、初期生育が旺盛となり、りん茎重及び商品収量が最も大きくなる(表2)
  • 定植日が8月2日から9月1日の間では、マルチの種類に関係なく、日長及び温度の条件が生育及びりん茎の肥大に適した8月12日の定植で最もりん茎重が大きく商品収量が高い(表2)。白黒マルチを用いて8月12日に定植した場合、早いもので10月中旬頃より倒伏が開始し、11月上旬以降に倒伏株が最も多くなる。8月12日以外の定植日では商品収量が大幅に低いことから、セット球の定植に適した時期は短いと考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、2016年に農研機構東北農業研究センター(岩手県盛岡市)で得られたものである。複数年次及び公設試(青森県・岩手県)における試験でも同様の結果が得られており、東北地方北部の同様の気象条件を有する地域において適用が可能である。より温暖な東北地方南部等では、定植適期や収穫時期が遅くなることが見込まれる。
  • 本成果は、セット栽培専用品種「シャルム」を用い、288穴セルトレイで育成したセット球のうち、球径で1.8~2.4cm(平均1.98cm)に選別し、セット球採取2週間後から自発休眠覚醒のために35°Cで3週間の高温処理を行ったものを定植し、倒伏株を順次収穫しながら最終的に11月14日に全収穫を行った場合の結果である。東北地方北部では、低温・降雪のため、非倒伏株も含めて11月中旬までには収穫を終えるのが望ましい。
  • 本作型は、本圃での在圃期間が8月~11月の約3ヶ月と短く、春まきタマネギ等の春夏野菜等との輪作体系が可能である。

具体的データ

表1 タマネギの慣行作型と新作型の栽培暦,表2 マルチの種類及びセット球の定植日が収穫時のりん茎重及び収量に及ぼす影響,図1 288穴セルトレイによるセット球育成の様子,図2 2016年8月~11月における日平均気温及びマルチ種類別の日平均地温の推移

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:木下貴文、山本岳彦、濱野恵、山崎篤
  • 発表論文等:木下ら(2018)園芸学研究、17(3):303-309