橙色キンセンカの花色発現に関わるカロテノイド組成

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

橙色キンセンカには黄色花弁には含まれていない赤みを帯びた10種のカロテノイドが存在し、そのうち6種は5位もしくは5(位にシス構造を持っている。また、これらのうち、5種はこれまでに天然物として報告されていない新規カロテノイドである。

  • キーワード:キンセンカ、カロテノイド
  • 担当:花き研・生理遺伝部・育種工学研究室
  • 連絡先:電話029-838-6813、電子メールwww-flower@naro.affrc.go.jp
  • 区分:花き
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

橙色系のキク花弁ではアントシアニンとカロテノイドの重なりによって橙色を発現しているが、明度が低く不鮮明なのが欠点である。一方、同じキク科に属しているキンセンカはカロテノイドのみで構成される鮮明な橙色花色を有する。そこで、キンセンカの橙色品種と黄色品種のカロテノイド成分を比較・決定し、キクのカロテノイド生合成系に関わる遺伝子組換えによる新花色の作出に役立てる。

成果の内容・特徴

  • 橙色品種と黄色品種(図1)の花弁のカロテノイド抽出液のHPLCクロマトグラムを比較すると、橙色品種には黄色品種で検出されるカロテノイド9種類に加えて橙色品種に特有である10種類のカロテノイドが存在する(図2)。
  • これら橙色品種に特有なカロテノイドはいずれもキンセンカの主要カロテノイドであるフラボキサンチンより吸収スペクトルの極大値が25~50 nm長波長側にあり、赤みを帯びている。
  • 橙色品種に特有な10種類のカロテノイドの構造をNMR分析にて決定したところ、このうち6種類は5位もしくは5'位にシス構造を持っている(表1、図3)。橙色品種ではカロテノイドの5位もしくは5'位が異性化されシス構造を取ることによって末端の環化が阻害され、赤みを帯びたリコペン類や環を1つしか持たないカロテン類が蓄積するものと考えられる。
  • (5'Z )-γ-carotene, (5'Z, 9'Z )-rubixanthin, (5Z, 9Z )-lycopene, (5Z, 9Z, 5'Z )-lycopene, (5Z, 9Z, 5'Z, 9'Z )-lycopene(図3)の5種は天然物として新規のカロテノイドである。

成果の活用面・留意点

  • 橙色品種にのみ5位もしくは5'位を異性化する酵素が存在すると考えられる。この反応に関与する遺伝子を単離することができれば、遺伝子組換えによって花弁に赤みを帯びたリコペン類を特異的に蓄積させ、キンセンカのように鮮やかな橙色の花色を持つキクを作出できる可能性がある。

具体的データ

図1.材料として用いたキンセンカ品種

 

図2.キンセンカ‘アリスオレンジ’(橙色)および‘アリスイエロー’(黄色)花弁のカロテノイドの HPLC 分析

 

表1.キンセンカ花弁より同定されたカロテノイド成分

 

図3.新規カロテノイド (5Z,9Z,5 Z,9 Z)-Lycopene の構造

その他

  • 研究課題名:栽培キク花弁におけるルテイン及びその誘導体の集積の特徴と集積機構の解明
  • 課題ID:10-01-01-02-10-04
  • 予算区分:二次代謝産物
  • 研究期間:2004年度
  • 研究担当者:岸本早苗、大宮あけみ、住友克彦