本邦初発生のトマト退緑萎縮ウイロイドの生物学的・物理的特性

要約

本邦初発生のトマト退緑萎縮ウイロイド(TCDVd)は多くのナス科と一部のキク科植物に無病徴感染し、耐熱性・耐希釈性は極めて高い。また、トマトに感染した本ウイロイドは交配に用いるクロマルハナバチの受粉活動で媒介される。

  • キーワード:トマト退緑萎縮ウイロイド、耐熱性、耐希釈性、受粉用クロマルハナバチ
  • 担当:花き研・生育開花調節研究チーム、中央農研・昆虫等媒介病害研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-6820
  • 区分:共通基盤・病害虫(病害)、関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(病害)
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

広島県の施設トマトにおいてトマト退緑萎縮ウイロイド(TCDVd)が国内で初めて発生した(平成18年度広島県特殊報第5号)。本ウイロイド病は,感染トマトの上位葉に退緑、黄化、萎縮、えそを伴う葉巻症状を呈し(図1)、その後のトマトの生長を止めた。本病は汁液を介して容易に伝染し、栽培管理作業の進行方向に一致して発生拡大した。本病の分散を防ぎ、根絶させるためには、適確な診断・検出に基づく伝染源の除去と関連資材の消毒等の効果的な防除技術が必須である。しかし、それら技術開発に必要な本病原ウイロイドの宿主範囲・耐熱性等の生物学的、物理的特性の基本情報は皆無である。今後も予想される輸入ナス科種苗を介した同病害の侵入・拡大を未然に防ぐためにも、それら種々の特性を明らかにすることで本病の防除技術の開発に資する。

成果の内容・特徴

  • 広島県内の施設栽培トマトで発生したTomato chlorotic dwarf viroid(TCDVd)の塩基配列(GenBank/EMBL/DDBJ accession no. AB329668)は、既報カナダ分離株(AF162131)と約98%の同一性を示す。
  • TCDVdは、発表論文1)に記載されているRT-PCR法で容易に検出される。
  • TCDVdは、少なくとも4科22種の植物に全身感染するが(表1)、それらの内トマトとNicotiana glutinosa(花弁の斑入り)以外は無病徴である。
  • TCDVd感染トマト葉磨砕液は、100°Cで10~30分煮沸処理しても感染性を失わない(表2)。また、本磨砕液は十万倍希釈でも感染性を示す(データ省略)。
  • TCDVdは受粉に用いるクロマルハナバチの訪花活動を介してトマトからトマトへと媒介され、感染したトマトは後に発病する(図2)。

成果の活用面・留意点

  • TCDVdは、広島県に続き千葉県のトマトでも発生したが(平成19年千葉県特殊報第4号)、その後の国内での発生は確認されてない。
  • トマト退緑萎縮病の病徴はトマト黄化葉巻病の初期病徴と類似していることから、本病の確実な診断には発表論文1)に記載されているRT-PCR法で検定する。
  • クロマルハナバチによる媒介実験は小面積・高密度で実施したことから必ずしも実際の圃場を反映するものではないが、本病発生圃では念のため結果をホルモン剤処理、振動処理等に切り替える。
  • TCDVdはペチュニア、ワルナスビといった園芸植物や雑草に無病徴感染するため、本病を確実に根絶するには購入した発病苗と流通経路・栽培上で接触した宿主植物や発生地域周辺で自生する宿主植物についてもTCDVdの保毒調査を実施する。

具体的データ

図1 トマトにおけるTCDVdの病徴

表1 TCDVdの宿主植物域

表2 TCDVdの耐熱性

図2 クロマルハナバチにおけるトマトからトマトへのTCDVdの媒介

その他

  • 研究課題名:きく等切り花の生育・開花特性の解明と安定多収技術の開発
  • 課題ID:213g
  • 予算区分:基盤、実用技術
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:松下陽介、松浦昌平(広島総研・農技セ)、小塚玲子(千葉農林総研)、清水佐知子(広島総研・農技セ)、宇杉富雄、津田新哉
  • 発表論文等:
    1) Matsushita, Y. et al. (2008) J. Gen Plant Pathol. 74(2):182-184
    2) Matsushita, Y. et al. (2009) Eur. J. Plant Pathol. 124(2):349-352
    3) Matsuura, S. et al. (2010) Eur. J. Plant Pathol. 126(1):111-115