キクの花成およびFT遺伝子発現における暗期中断の分光感度

要約

キクの暗期中断による花成抑制およびFT遺伝子の発現抑制における分光感度はフィトクロムのピーク660 nmより短波長側の596、639 nmで高い。

  • キーワード:キク、花成、暗期中断、FT、フィトクロム
  • 担当:日本型施設園芸・花き効率生産
  • 代表連絡先:電話 029-838-6801
  • 研究所名:花き研究所・花き研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年キクの暗期中断用の光源として蛍光灯や発光ダイオード(LED)の利用が進みつつあるが、新光源を導入する際にはキクの暗期中断による花成抑制に有効な波長域を明らかにし、光源選択の際に活用することが望ましい。そこで、暗期中断時の光質が花成反応ならびにフロリゲン様遺伝子CmFTL3の発現におよぼす影響を調査する。

成果の内容・特徴

  • 「セイローザ」において、UV-Aから赤色光の波長域について、カラー蛍光灯による暗期中断では、黄、橙および赤色光で強い花成抑制効果がみられる(表1)。緑~遠赤色光の波長域についてLEDを用いて詳細に調査した結果、ピーク波長596および639 nmのLEDでピーク波長660 nmのLEDに比べて花成抑制効果が高く、遠赤色光ピーク波長740 nmの遠赤色LEDでは無処理とほとんど変わらない(表2)。夏秋ギク品種「精雲」および「岩の白扇」についても、ピーク波長660 nmのLEDに比べ、ピーク波長595 nmのLEDで花成抑制効果が高い(データ省略)。
  • 赤色光の暗期中断による花成抑制は、遠赤色光によって打ち消される(表3)。
  • 以上より、暗期中断による花成抑制の分光感度は光受容体フィトクロムの赤色光吸収型吸収スペクトルとほぼ一致する。さらに遠赤色光による赤色光の効果の打ち消しがみられることから、暗期中断による花成抑制はフィトクロムを介した反応であると考えられる。
  • フィトクロムの吸収スペクトルのピークは660 nm付近にあるとされるが、暗期中断による花成抑制効果は、ピーク波長660 nmのLEDより短波長側のピーク波長596および639 nmのLEDで高い。この原因として、フィトクロム全体における遠赤色光吸収型フィトクロムの割合(フィトクロム平衡)がピーク波長660 nmのLEDの0.88に比べ、ピーク波長596および639 nmのLEDでは、それぞれ0.91および0.89と高いことが考えられる。また、葉抽出液の吸光が660 nmで高い(データ省略)ことから、クロロフィルなどの葉中の色素による遮蔽効果も考えられる。
  • 葉におけるCmFTL3の発現は花成抑制程度に対応して減少し、ピーク波長596、639および660 nmのLEDによる暗期中断で低い(図1)。暗期中断によるCmFTL3発現抑制の分光感度はフィトクロムの吸収スペクトルとほぼ一致することから、暗期中断による花成抑制において、フィトクロムを介したCmFTL3発現抑制の関与が示唆される。

成果の活用面・留意点

  • キクの暗期中断用の光源を選ぶ際の基礎知見となる。
  • 試験に用いた照明器具は全て試作品である。

具体的データ

 表1~3,図1

その他

  • 中課題名:生育開花機構の解明によるキク等の主要花きの効率的計画生産技術の開発
  • 中課題番号:141e0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(光プロ)
  • 研究期間:2009~2012年度
  • 研究担当者:住友克彦、久松 完、中山真義、樋口洋平、小田 篤、青木 献(愛知県農総試)、宮前治加(和歌山県農試)、石渡正紀(パナソニック株式会社エコソリューションズ社)、山田 真(パナソニック株式会社エコソリューションズ社)
  • 発表論文等:Sumitomo K. et al. (2012) J. Hort. Sci. Biotech. 87(5):461-469