分離と混合を同時に行う薄層クロマトグラフィーの開発と新奇補助色素の検出

要約

試料を斜めに交差して展着することで、薄層クロマトグラフィーの上で化合物の分離と混合を同時に行う方法を開発する。この方法を用いて、花の主要な色素であるアントシアニンによる発色を淡色化する新奇な作用を持つ化合物を検出する。

  • キーワード:アントシアニン、スイートピー、薄層クロマトグラフィー、補助色素
  • 担当:加工流通プロセス・品質評価保持向上
  • 代表連絡先:電話 029-838-6801
  • 研究所名:花き研究所・花き研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

花の主要な色素であるアントシアニンによる発色に影響を与える、補助色素と呼ばれる無色あるいは淡色の化合物が存在する。既知の補助色素の多くは、アントシアニンの生合成関連化合物であるフラボノイドや桂皮酸誘導体であり、アントシアニンによる発色を濃色化する効果を示す。補助色素を検出するためには、種々のクロマトグラフィーによってアントシアニンと補助色素候補化合物をそれぞれ精製した後に、それぞれの溶液を再度混合することで色調の変化を観察する方法が用いられている。そこで、薄層クロマトグラフィーの上で化合物の分離と混合を同時に行う方法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 薄層クロマトグラフィーに試料を斜めに交差して展着する(図1左)。各化合物は上部原点とそれぞれのRf値を結ぶ直線上に展開・分離する(図1右)。この時、全ての化合物の展開線はお互いにいずれかの点で交差することになる。化合物同士の混合が、交差点において達成される。
  • アントシアニン色素の展開線の色は、補助色素の展開線との交差点で変化する(図1右)。色の変化を指標にすることで、補助色素の存在と薄層クロマトグラフィーにおいて展開される位置が検出できる。
  • 上述の方法によってスイートピーの花弁の抽出液を分析すると、アントシアニンの展開線には補助色素の効果と考えられる濃色化した部位とともに、淡色化した部位が認められる(図2左)。これらの補助色素の候補化合物は、薄層クロマトグラフィーを暗所で紫外光を照射して観察したときに、紫外光吸光物質として検出される(図2右)。
  • 各候補化合物を単離・精製し、機器分析によって構造を解析した。濃色化効果を持つ化合物は、フラボノイドであるケンフェロール 3-ラムノシドである(図3左)。一方、補助色素としての新奇な淡色化効果を持つ化合物は、補助色素としての新奇な構造を有する2-シアノエチル-イソザゾリン-5-オンである(図3右)。
  • それぞれの化合物の補助色素としての機能は、アントシアニンとの混合実験によっても認められる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 化合物の分離を目的として開発されたクロマトグラフィーに、化合物を混合する機能を加えるものである。
  • 淡色化効果を持つ補助色素の初めての報告である。
  • 補助色素の研究が進むことで、花の発色機構の解明が進む。

具体的データ

 図1~4

その他

  • 中課題名:農畜産物の品質評価・保持・向上技術の開発
  • 中課題番号:330a0
  • 予算区分:異分野融合、交付金
  • 研究期間:2007~2012年度
  • 研究担当者:中山真義、湯本弘子、林宣之、市村一雄
  • 発表論文等:1)Shimizu-Yumoto H. et al. (2012) J. Chromatogr. A, 1245: 183-189