カーネーション花弁におけるカロテノイド代謝関連遺伝子の発現

要約

カーネーションの花弁においてカロテノイドが多量に蓄積しないのは、カロテノイド生合成経路で働く酵素遺伝子の発現が著しく低いことに起因している。

  • キーワード:カーネーション、カロテノイド、遺伝子発現
  • 担当:日本型施設園芸・新形質花き創出
  • 代表連絡先:電話 029-838-6801
  • 研究所名:花き研究所・花き研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

カーネーションをはじめとするナデシコ目の植物の花は、フラボノイドまたはべタレインにより発色し、カロテノイドにより濃黄色を発色する植物は存在しない。一方、カロテノイドは光合成に重要な役割を果たし、ナデシコ目の植物においても葉では多量に蓄積している。そこで、カーネーションの花弁および葉におけるカロテノイド代謝関連遺伝子の発現量をマイクロアレイにより解析し、器官特異的なカロテノイドの蓄積を制御する要因を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 発達後期の「フランセスコ」の葉(図1、L2)ではカロテノイドが135.1±22.0μg/gFW含まれている(図2)。「フランセスコ」の赤色花弁では発達に伴いカロテノイドが減少し、発達後期(図1、F4)にはきわめてわずかしか含まれていない。「セイシェル」の緑色花弁では発達後期(図1、S4)にカロテノイド量が増加し、「フランセスコ」の葉の約13分の1(10.3±0.85μg/gFW)含まれている。
  • 「フランセスコ」花弁では、DXS およびDXR は葉よりも顕著に発現量が高い(図3)。ZDSPDSLCYBCHYBCHYEVDE は葉と同程度の発現量を示す。葉よりも発現量が低いのはLCYEZEPPSY で、発達に伴い減少する傾向にある。
  • 「セイシェル」花弁では、多くの生合成酵素遺伝子が「フランセスコ」の葉と同程度発現している(図3)。「フランセスコ」の葉と比較してDXSDXR の発現量は顕著に高いが、ZEP の発現量は低い。
  • リアルタイムPCRにより複数の白花品種および緑花品種で比較すると、PSYLCYE の発現が白色花弁で顕著に抑制されている(データ未掲載)。
  • カロテノイドの分解に関与するカロテノイド酸化開裂酵素遺伝子(CCD4 )は葉および花弁において発現が検出されないことから、花弁におけるカロテノイド分解活性は低いと考えられる(データ未掲載)。
  • 以上の結果から、「フランセスコ」花弁においてカロテノイドが蓄積しないのは、カロテノイド生合成経路で働く特定の酵素(PSYLCYE )の遺伝子発現が著しく低いことに起因しているものと考えられる。

成果の活用面・留意点

  • マイクロアレイは、カーネーションのEST情報[Tanase et al. (2012) BMC Genomics13: 292] に基づき作成したカスタムアレイを用いた。このマイクロアレイを用いてカーネーションの種々の形質に関連した遺伝子の発現を解析することができる。
  • カロテノイド生合成酵素の中で、イソペンテニルピロリン酸異性化酵素およびカロテノイド異性化酵素のEST配列は短く、プローブ設計ができなかったため、マイクロアレイには含まれていない。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:分子生物学的手法による新形質花きの創出
  • 中課題整理番号:141h0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:大宮あけみ、棚瀬幸司、山溝千尋、平島真澄、八木雅史
  • 発表論文等:Ohmiya A. et al. (2013) Plant Breed. 132: 417-422