カーネーション花弁におけるクロロフィル蓄積の制御機構

要約

一般的なカーネーション品種の花弁では、葉に比べてクロロフィル生合成活性が低く、かつ分解活性が高いため、クロロフィルが蓄積しない。一方、緑花品種の花弁では、生合成活性が葉と同程度に高いためクロロフィルが蓄積する。

  • キーワード:カーネーション、クロロフィル、花色、遺伝子発現
  • 担当:日本型施設園芸・新形質花き創出
  • 代表連絡先:電話 029-838-6822
  • 研究所名:花き研究所・花き研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

植物は花弁にクロロフィルを蓄積すると、鮮やかな花色を発現できない。そのため、葉において多量に蓄積しているクロロフィルを花弁では蓄積しないように制御する仕組みを備えている。一方、園芸品種の中には、花弁にクロロフィルを蓄積する緑花品種が数多く存在する。ところが、どのようなメカニズムで、葉や花弁においてクロロフィルの蓄積量の違いが生じているのかに関する知見は皆無である。本研究では、葉や花弁においてクロロフィルの蓄積量の違いをもたらす機構を明らかにすることを目的とし、カーネーションの赤または白色の非緑色花弁(クロロフィルをほとんど蓄積しない) と緑色花弁(クロロフィルを少量蓄積する)、および葉(クロロフィルを多量に蓄積する)におけるクロロフィル代謝関連遺伝子の発現を比較し、花弁においてクロロフィル量を制御する機構について考察する。

成果の内容・特徴

  • 「フランセスコ」の赤色花弁および「セイシェル」の緑色花弁に含まれるクロロフィル量は、「フランセスコ」の葉と比較してそれぞれ0.02%および7.9%である。
  • マイクロアレイ解析の結果、「セイシェル」花弁では「フランセスコ」葉と同程度の生合成酵素遺伝子が発現しているのに対し、「フランセスコ」花弁では、全体的にクロロフィル生合成酵素遺伝子の発現が葉よりも低い傾向が認められる(図1)。特にクロロフィル生合成の鍵酵素であるMg-chelataseのHサブユニット(CHLH)とMg-protoporphyrin IX methyltransferase(CHLM)をコードする遺伝子の発現量が顕著に低い。
  • クロロフィル分解に関与する遺伝子の発現は、「フランセスコ」と「セイシェル」の花弁では同様の傾向を示し、STAY-GREEN(SGR)とpheophytinase(PPH)をコードする遺伝子が葉と比較して顕著に高い(図1)。
  • 緑花品種および白花品種の花弁における発現量をリアルタイムPCRにより比較すると、CHLHCHLMは緑色花弁で発現量が高いが、SGRPPHは花弁の色による発現量の違いは認められない(図2)。
  • 以上の結果から、非緑色花弁においてクロロフィルがほとんど蓄積していないのは、葉と比較して生合成活性が低く、分解活性が高いためであると考えられる。また、緑色花弁では、非緑色花弁と比較して分解活性は変わらないが、生合成活性が高いためにクロロフィルが蓄積するようになったと考えられる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • マイクロアレイは、カーネーションのESTデータベース [Tanase K. et al. (2012) BMC Genomics13: 292] に基づき作成したカスタムアレイを用いた。このマイクロアレイを用いてカーネーションの種々の形質に関連した遺伝子の発現を解析することができる。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:分子生物学的手法による新形質花きの創出
  • 中課題整理番号:141h0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:大宮あけみ、棚瀬幸司、八木雅史、平島真澄、山溝千尋
  • 発表論文等:Ohmiya A. et al. (2014) PLoS ONE 9(12):e113738.
    doi:10.1371/journal.pone. 011 37 38