葉切片の癒合と再分化を介したキク周縁キメラ植物の作出

要約

形質転換体由来の蛍光タンパク質をマーカーとして用い、キク植物体の培養葉切片の癒合と癒合部分からの植物体再分化を介して、キク周縁キメラ植物を作出できる。

  • キーワード:周縁キメラ、キク、組織培養、蛍光タンパク質
  • 担当:日本型施設園芸・新形質花き創出
  • 代表連絡先:電話029-838-6801
  • 研究所名:花き研究所・花き研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

植物の茎頂分裂組織を構成する細胞は、一般的にL1(最も表層の1細胞層)、L2(2層目の1細胞層)、L3(3層目から内側の細胞)の3層構造(図1A)になっており、この層構造は器官分化後の植物体においても比較的安定して維持される。そのため、キクを始めとする栄養繁殖性花きにおいて周縁キメラは重要な役割を担っている。例えば、花色変異を持つキク枝変わり品種群は色素関連遺伝子の突然変異により生じた周縁キメラ状態であることが知られている。育種計画に基づいて特定の層のみ改変する周縁キメラの作成は、新しい育種法につながると考えられる。周縁キメラの多くは自然突然変異により生じたものであるが、タバコやカンキツ類等では人為的な周縁キメラ植物の作出例がある。そこで、報告例が無いキクにおいて周縁キメラ植物の作出手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 作出手順のフローチャートを図1Bに示す。キク「大平」野生型および選抜マーカーとして海洋プランクトンの蛍光タンパク質遺伝子(CpYGFP)を導入した形質転換体の培養葉切片(2 mm×8 mm)を、各々の切断面を接触させた状態で培養する。7日間培養後、部分的に癒合した葉切片(図1C)を分離し、野生型の葉切片の周囲に形質転換体の細胞が点在している状態の外植片(図1D)を得る。この外植片をさらに培養し、野生型細胞と形質転換細胞がモザイク状に分布するカルス(図1E)由来の再分化シュートを得る。再分化シュートの中から、蛍光のある細胞と蛍光の無い細胞がモザイク状に分布する不完全周縁キメラ状態のシュート(図1F)を選抜する。
  • 不完全周縁キメラ植物の腋芽を3回繰り返し伸長させて得られたのが、L1層のみ蛍光を有する周縁キメラ個体(図2A)、および、L3層のみ蛍光を有する周縁キメラ個体(図2B)である。
  • 以上の様に、キクにおいては培養植物の葉切片の癒合と再分化を介した周縁キメラ植物が作出可能である。

成果の活用面・留意点

  • キクにおける人為的な周縁キメラ植物作成の初めての事例であり、キク周縁キメラ作成のための有用な情報となる。
  • 選抜マーカーとして蛍光タンパク質遺伝子(CpYGFP)を用いることで可視的に効率よくキメラ性を判定できる。
  • 4120外植片から再分化した996本のシュート中、不完全周縁キメラ状態のシュートは1つだけであり、作出効率が低いことに留意する必要がある。また、葉切片からの再分化能力には品種間差があるため、品種によっては本手法が適用できない可能性がある。

具体的データ

その他

  • 中課題名:分子生物学的手法による新形質花きの創出
  • 中課題整理番号:141h0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2012~2015年度
  • 研究担当者:間 竜太郎、佐々木克友、大坪憲弘
  • 発表論文等:Aida R. et al. (2016) Plant Biotechnol. 33(1):45-49