細胞融合によるカンキツ体細胞雑種における細胞質DNAの再編成

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要約

  カンキツ類の細胞融合では細胞質のDNA再編成は低いとされてきたが,近縁属との体 細胞雑種においてミトコンドリアDNAの再編成とクロロプラストDNAのユニークなバ ンドパターンが確認された。このように細胞融合により,多様なDNA組成の育種素材が 得られた。

背景・ねらい

カンキツ近縁属の有する耐病性,耐ネマトーダ性,各種耐ストレス性,わい性等の有用 形質を細胞融合によりカンキツに導入し,交配育種では得られない有用形質を有するカン キツ台木の育種に対して多様なDNA組成の素材を提供しようとする。

成果の内容・特徴

  • 細胞質DNAは細胞融合の際にどちらかが消失してしまうことが多いが,カンキツと近縁属である Atalantia monophylla( 表1 )及び Severinia buxifolia( 図1 )との体細胞雑種においてはミトコンドリアDNAの再編成が確認された。 さらに,Microcitrus australisとの体細胞雑種においてクロロプラストDNAのユニークなバンドパターンが確認された( 図2 )。
  • 従来のカンキツの細胞融合による体細胞雑種ではミトコンドリアDNAはカルス親の,クロロプラストDNAはカルス親,あるいは葉肉親どちらか一方のDNA組成であり,両親双方からの部分的DNAの移行や一部DNAの欠失の報告はなかった。ミトコンドリアの再編成については,細胞質雑種での一例を除いてはない。今回のようにクロロプラストDNAプローブにより,ユニークなバンドが検出されたことについては詳細な解析を要するが,通常(変異体や同位体照射等を利用せずに)のカンキツの細胞融合でミトコンドリアの再編成やクロロプラストDNAのユニークなバンドパターンの出現が確 認された例はない。
  • これらの結果は1組の組合わせで細胞質DNAを異にする様々な雑種が得られることを示唆し,除草剤抵抗性等の細胞質DNAにコードされている農業上有用な遺伝子の移行を効率的に実施できる可能性がある。

成果の活用面・留意点

細胞質DNAを異にする雑種が獲得されることにより,従来にも増して有用形質を有す るカンキツ台木育種素材の多様化が図られる。さらに,細胞質DNAの再編成を詳細に解 析することにより遺伝学的,分子生物学的な基礎的研究への貢献が期待される。

具体的データ

表1 カンキツ(セミノール)とAtalantia monoplyllaの属間体細胞雑種のサザン解析

その他

  • 研究課題名:カンキツのSDV等ウイルス病抵抗性台木素材の作出
  • 予算区分:平成3~5年・バイテク育種
  • 研究担当者:本村敏明,日高哲志,秋浜友也,森口卓哉,大村三男
  • 発表論文等:現在投稿準備中