ナシ黒星病菌における病原性の分化

要約

ナシ黒星病菌 Venturia nashicola には,「幸水」に病原性を示す系統(レース1)のほかに,「マメナシ12」のみに病原性を示すレース2,「幸水」と「マメナシ12」の両方に病原性をもつレース3が見出された。ニホンナシの在来品種「巾着」は黒星病菌のいずれのレースに対しても抵抗性(免疫性)であった。

背景・ねらい

黒星病はニホンナシの最も重要な病気の1つであるが,これに対する抵抗性品種が実用化されていないため,その防除にはもっぱら殺菌剤の散布が慣行となっている。しかし,栽培者の高齢化や後継者不足の問題から薬剤散布作業の省力化が望まれているほか,生産された果実の安全性に対する消費者の不安を解消するためにも,病害抵抗性品種の育成,利用をはじめとした新たな病害防除技術の開発が必要となっている。抵抗性品種の育成にあたっては,黒星病菌における病原性の分化を事前に調べておくことが重要である。

成果の内容・特徴

  • 接種試験の結果,「幸水」から分離した黒星病菌は,「幸水」に病原性を示したが,保存系統「マメナシ12」には病原性を示さなかった。また,「マメナシ12」からの分離菌は,「マメナシ12」のみに病原性を示すものと,「マメナシ12」及び「幸水」の両方に病原性を示すものに分かれた。そこで,これらをそれぞれレース1,2及び3と名づけた。
  • 黒星病菌はナシ園で無性生殖を繰り返すほか有性生殖も行う。レース1とレース2の間で実験室内での人工交雑が可能であったことから,自然界における菌のかけ合わせによって病原性遺伝子間で組換えが起こり,新たな病原性をもつレース3が出現した可能性が示唆された。
  • ニホンナシの在来品種「巾着」は黒星病菌の3つのレースの何れにも抵抗性(免疫性)で,菌を接種しても全く病徴を現さなかった。
  • ニホンナシ品種「水秀」も黒星病菌の3つのレースのすべてに抵抗性を示した。しかし,この品種については最近黒星病の発生が一部で確認されたため,病害抵抗性に関する遺伝資源としての活用にはなお検討を要する。

成果の活用面・留意点

ナシの交雑実生等から黒星病抵抗性の個体を選抜するための接種試験に,これらのレースを供試することが可能。

具体的データ

表1  ナシ黒星病菌の病原性の分化(単胞子分離菌を接種源とした場合)

表2   ナシ黒星病菌の病原性の分化

その他

  • 研究課題:ナシ黒星病菌の変異と病原性分化機構の解明,制御
  • 予算区分:平成5~7年・大型別枠研究(生態秩序)
  • 研究担当者:石井英夫,阿部和幸
  • 発表論文等:ナシ黒星病菌にみられる病原性の分化
                      日本植物病理学会報,60巻3号,1994(講要)。