カンキツ果実のビオラキサンチン集積量はアブシジン酸生合成と関連する

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要約

ウンシュウミカンでは、ビオラキサンチン(VIO)を分解してアブシジン酸(ABA)生成に関与する酵素遺伝子CitNCEDの発現が高くなるため、オレンジに比べてVIO集積量が少なく、ABA集積量が多い。

  • キーワード:カロテノイド、アブシジン酸、カンキツ、NCED
  • 担当:果樹研・健康機能性研究チーム
  • 連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・栽培
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

β-クリプトキサンチン(BCR)とビオラキサンチン(VIO)はカンキツ果実の最も主要なカロテノイドである。これまで、カロテノイドを生成する酵素遺伝子群の発現解析を行い、ウンシュウミカン果肉では、カロテノイド生成がBCRを集積しやすい遺伝子発現バランスになっていること、オレンジ果肉では、BCRを集積しにくく、さらに代謝が進んだVIOが集積しやすい遺伝子発現バランスになっていることを明らかにしている(平成15年度果樹研究成果情報)。しかし、カロテノイドの集積量は、生成されたカロテノイドの分解過程も明らかにしないと十分に説明できない。このため、VIOを分解してアブシジン酸(ABA)生成を進める酵素であるNCED(9-cis-epoxycarotenoid dioxygenase)に着目し、カロテノイドの分解過程がカロテノイド集積量に及ぼす影響を解明する。

成果の内容・特徴

  • ウンシュウミカン「宮川早生」、オレンジ「バレンシア」から単離したCitNCED2(NCEDをコードするcDNAの1種)由来の組換えタンパク質は、図1のとおり9-シス-VIO(最も含量が高いVIO異性体)を分解し、ABAの前駆物質となるキサントキシンを生成する。
  • 果肉におけるCitNCED2の発現は、ウンシュウミカンでは成熟に伴って急増するが、オレンジでは成熟期間中に発現の上昇は認められない(図2)。
  • 果肉の9-シス-VIO含量は、ウンシュウミカンでは成熟期間中低いレベルで推移するが、オレンジでは成熟に伴って急増する(図3)。
  • 果肉のABA含量は、ウンシュウミカンで高く推移し、成熟時に上昇する。オレンジでは、成熟期間中低いレベルで推移し、明瞭な含有量の上昇がない(図4)。
  • 以上から、オレンジでは、CitNCEDの発現が低いためVIOの分解が進まず、VIO集積量が増大し、逆にABA集積量が低く推移すると考えられる。一方、ウンシュウミカンでは、成熟期にCitNCEDの発現が高くなるためVIOの分解が進み、VIO集積量が低く推移し、逆にABA集積量が増大すると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 本研究の成果は、既に公表した成果(平成15年度果樹研究成果情報)と併せて、「ウンシュウミカン果肉における特異的なBCRの集積には、カロテノイド生成がBCRで止まりやすいという機構だけでなく、VIOまで代謝が進んでも容易にABAに分解されるという機構も関与する」という情報を提供するものであり、BCRの高含有化やカロテノイド組成の改変のための技術開発に参考となる。

具体的データ

図1  9-シス-ビオラキサンチンのNCEDによる分解過程

図2 CitNCED2発現量の品種間差

図3  9-シス-ビオラキサンチン含量の品種間差

図4 アブシジン酸含量の品種間差

その他

  • 研究課題名:かんきつ・りんご等果実の機能性成分の機能解明と高含有育種素材の開発
  • 課題ID:312-c
  • 予算区分:二次代謝産物、新事業創出
  • 研究期間:2001~2006年度
  • 研究担当者:松本光、生駒吉識、加藤雅也、奥田均、矢野昌充
  • 発表論文等:Kato et al. (2006) Journal of Experimental Botany 57:2153-2164.