リンゴ由来のMdPISTILLATA (MdPI) 遺伝子の機能解明

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要約

リンゴ由来のMdPI遺伝子は、花べんと雄ずいの形成を制御するクラスB遺伝子の機能を持ち、またリンゴの花べんと雄ずいでの特異的な発現の制御機構が種を超えて保存されている。

  • キーワード:MdPI、単為結実、リンゴ、ABCモデル、ホメオティック変異
  • 担当:果樹研・リンゴ研究チーム
  • 連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・栽培、東北農業・果樹
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

リンゴの単為結実品種は花器官にホメオティック変異がみられ、花べんががくに、雄ずいが雌ずいに変化する(図1)。この花器官変異は、花器官形成のABCモデルで花べんと雄ずいの形成を制御するクラスBの機能を持つリンゴMdPI遺伝子の機能欠損により生じることが明らかになっているが、MdPI遺伝子と単為結実性との関連は不明である。そこで、リンゴにおけるMdPI遺伝子の機能を解明するために、モデル植物シロイヌナズナのpi変異体を用いた回復実験、ゲノムの調節領域のプロモーター活性の同定、およびin situハイブリダイゼーション法による発現部位の特定をおこない、MdPI遺伝子とリンゴの単為結実性との関連性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • リンゴMdPI遺伝子をシロイヌナズナの相同遺伝子PIを欠損している変異体pi-1に導入すると、欠損していた花べんと雄ずいが回復し、リンゴのMdPIが花べん、雄ずい形成機能を持つことを示している(図2)。
  • リンゴのゲノムライブラリーよりMdPI遺伝子のコーディング領域を含む約5キロ塩基長の構造を明らかにしている。MdPI遺伝子の転写調節領域とGUSレポーター遺伝子を連結したコンストラクトを作成してシロイヌナズナに導入した結果、花べんと雄ずいのみでGUS染色が観察され、クラスB遺伝子として発現組織が限定されると考えられる(図3)。
  • in situハイブリダイゼーションの結果、リンゴ花芽の発達過程で花べんと雄ずいに特異的にMdPI遺伝子の発現がみられる(図4 A,B,C)。これは、シロイヌナズナ変異体を使った相補実験(図2)や、プロモーターアッセイ(図3)を支持しており、MdPIがリンゴでも花べんと雄ずいの形成に必須な遺伝子である事が類推される。
  • リンゴMdPI遺伝子は、モデル植物の相同遺伝子と同様に、花べんと雄ずいを決定する遺伝子である。この遺伝子の発現制御は植物種を超えて保存されている。

成果の活用面・留意点

  • 組織の固定法やプローブの浸透法を改良することによりリンゴでin situハイブリダイゼーション法を確立した。これにより他の果樹類へ応用することが期待できる。
  • リンゴ果実の大部分を占める花床部でMdPI遺伝子が全く発現しないため、単為結実品種の花床部の肥大はMdPI遺伝子の直接的な働きではない。

具体的データ

図1.単為結実品種の花と果実

図2.MdPI導入シロイヌナズナPi-1変異体。花べん4枚が回復、赤矢印:部分的に回復した雌ずい化した雄ずい、黒矢印:雌ずい。

図3.MdPIプロモーターのGUSアッセイ。青色に染まっている組織が、花べんと雄ずい。

図4.リンゴ「紅玉」花芽のMdPIのin situハイブリダイゼーション。 A:がく形成期 B:雄ずい形成期 C:雌ずい形成期 各花芽を約10μm厚の縦断切片にし、MdPIの発現する花べんと雄ずいが青色に染まり、雌ずい、花床部は染まっていない。

その他

  • 研究課題名:高収益な果樹生産を可能とする高品質品種の育成と省力・安定生産技術の開発
  • 課題ID:213-e
  • 予算区分:科研費(基盤A)、実用遺伝子、高度化事業
  • 研究期間:2004~2006年度
  • 研究担当者:和田雅人、工藤和典、別所英男、小森貞男(岩手大)、松本省吾(岐阜大)