プロピレン処理で粉質化させた硬肉モモではα-L-アラビノフラノシダーゼ活性が高い

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要約

硬肉モモ品種「おどろき」を高濃度のプロピレンで追熟処理すると粉質化する。その際、α-L-アラビノフラノシダーゼ活性が顕著に増大し、細胞壁多糖類からアラビノース残基が消失することから、このことが肉質の粉質化の要因である可能性が高い。

  • キーワード:硬肉モモ、エチレン、粉質化、α-L-アラビノフラノシダーゼ、細胞壁代謝
  • 担当:果樹研・果実鮮度保持研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-6502
  • 区分:果樹・栽培
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

成熟時のACC合成酵素遺伝子の発現が阻害されている硬肉モモ品種は、外生的なエチレン等の処理によって追熟・軟化する。これを利用した輸送・貯蔵技術の開発が検討されているが、高濃度エチレンで処理した場合に肉質が粉質化する欠点がある。粉質化の原因は不明である。 そこで、なめらかな肉質の溶質モモ品種「あかつき」と高濃度プロピレン処理で粉質化させた硬肉モモ品種「おどろき」について、両者の肉質形成に伴う細胞壁代謝の変動を比較することによって粉質化の生理的機構を明らかにし、肉質制御技術開発に資することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 軟化に伴いなめらかな肉質になる「あかつき」では細胞壁多糖類のNa2CO3-可溶性画分及び抽出残渣画分を構成する糖類のうち特にアラビノースが顕著に減少し、CDTA-可溶性画分で増大する。一方、プロピレン処理(5000μL/L、50μL/Lのエチレンに相当)で粉質化させた「おどろき」ではNa2CO3-可溶性画分、残渣画分でアラビノースが減少するにもかかわらずCDTA-可溶性画分での増大は認められない。(図1、残渣画分についてはデータ省略)
  • 「あかつき」では軟化に伴いα-L-アラビノフラノシダーゼ活性はやや増大するのみであるが、プロピレン処理で粉質化した「おどろき」では図2に示すように顕著に増大する。
  • 以上の結果より、硬肉モモを人為的に軟化させたときに発生する粉質化は、細胞壁多糖類からアラビノース残基が消失することと関連が深く、またα-L-アラビノフラノシダーゼの著しい増大が重要な役割を果たすものと考えられる。

成果の活用面・留意点

  • ここで得られた結果は、硬肉モモ品種をプロピレン処理したときに認められる粉質化に伴う細胞壁代謝の変動であり、硬肉モモ果実の粉質化の機構解明と防止技術の開発に資することができる。
  • 長期冷蔵後に追熟させたときにみられる粉質化や、品種の特性によって見られる粉質化などでも同様の変化が見られるかどうかは明らかでない。
  • 可溶化したペクチンの分子量分布の低下は、「あかつき」よりも「おどろき」で少なく、このことも粉質化に関連する可能性がある(Yoshioka et al., 2010)。
  • α-L-アラビノフラノシダーゼはα-L-アラビノフラノシド結合を加水分解する酵素として知られているが、in vivoでの基質については今のところ明確でない。

具体的データ

図1 モモ果実の軟化に伴う細胞壁の中性糖含量の変化

図2 モモ果実の軟化に伴うα-L-アラビノフラノシダーゼ活性の変化

その他

  • 研究課題名:果実の輸出等を促進する高品質果実安定供給のための基盤技術の開発
  • 中課題整理番号:313a
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2008年~2009年度
  • 研究担当者:吉岡博人、羽山裕子、立木美保、中村ゆり
  • 発表論文等:Yoshioka et al. (2010) Postharvest Biol. Technol. 55: 1-7