ミチノクナシでは自生植物と古い時代の帰化植物が交雑している

要約

環境省レッドリストで絶滅危惧I A類に指定されているミチノクナシでは、自生植物に対して古い時代に帰化したと考えられているニホンナシが交雑していると推定される。また、ミチノクナシの真の自生集団が残存するのは北上山地だけであると推定される。

  • キーワード:生物多様性保全、遺伝資源、ナシ
  • 担当:果樹研・研究支援センター・遺伝資源室
  • 代表連絡先:電話029-838-6468
  • 区分:果樹・育種
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

日本に野生するナシ属植物のうちミチノクナシの由来については、外来種説を含め従来から諸説があったが、北東北地方のミズナラ天然林などに分布する集団は自生植物であることが近年明らかになっている(Iketani and Ohashi、2003)。しかしこの集団を含め本種では、自生集団に見られる葉や実の小さな個体から栽培品種に見られる葉や果実の大きな個体までの形態変異が大きいため、アジア大陸から古い時代に渡来し果樹としても栽培されるニホンナシ(ヤマナシ)と交雑している可能性が疑われている。そこで20種のマイクロサテライトDNAを用いた集団遺伝学的手法により分析し、その生物学的な実態を解明する。

成果の内容・特徴

  • 中部地方の野生個体(ミチノクナシの変種アオナシ)や、アジア大陸の野生個体(ホクシヤマナシとも呼ばれる)はそれぞれ独自の単一の推定祖先集団を持ち、遺伝的に分化した集団であると推定される(図12)。
  • ミチノクナシでは、北上山地の野生個体の一部では独自の単一な推定祖先集団を持っていたが、これ以外の北東北地方の個体は、ニホンナシに特徴的な推定祖先集団を合わせてもつため、ニホンナシと交雑していると推定される(図2)。
  • ミチノクナシとされる植物のうち、真の自生集団が残存するのは北上山地だけであり、他の地域の個体は、交雑個体と置き換わった、ないしは元々自生はなく人為的に移入された個体が野生化したものと推測される。
  • これまでの研究で、ミチノクナシやチュウゴクナシの遺伝的影響を受けている可能性があると想定されていた日本海側地方のニホンナシの古い栽培品種は、これらの種類の遺伝的影響は受けていないと推測される。

成果の活用面・留意点

  • 従来特に注意の対象とされてこなかった古い時代に帰化した植物も、長い年月が経てば自生植物と交雑して生物多様性保全に影響を及ぼす可能性もある。
  • 古い時代の帰化植物の中には、モモ、ビワなど農業上重要な果樹や、キリ、ウルシなどのように日本の伝統文化に深く関わるものもある。現存するミチノクナシも、庭先果樹としての利用の他工芸材料等として利用されているため、近代に移入された外来種のように一律排除を目指した管理ではなく、地域や生態系毎に分けた保全方針の検討等が必要である。
  • 農業生物資源ジーンバンクにおいて現在までに保存されているミチノクナシ遺伝資源の全て(図2におけるその他の北東北地方のグループに含まれる)は、ニホンナシとの交雑タイプであることが判明した。よって新たな生物的多様性を持つ遺伝資源の利用のため、真の自生植物に近いミチノクナシを今後収集・保存していく必要がある。

具体的データ

図1 研究対象とした植物の収集地域

図2 解析個体が由来する5つの祖先集団の種類と数の推定

その他

  • 研究課題名:遺伝資源の収集・保存・活用
  • 中課題整理番号:511a.3
  • 予算区分:ジーンバンク、基盤、科研費
  • 研究期間:2006年~2009年度
  • 研究担当者:池谷祐幸、山本俊哉、片山寛則(神戸大学)、植松千代美(大阪市立大学)、間瀬誠子、佐藤義彦
  • 発表論文等:Iketani et al. (2009) Conservation Genetics (Online First, DOI 10.1007/s10592-009- 0009-8)