ブドウ晩腐病菌(Colletotrichum gloeosporioides)の効率的な分生胞子形成法

要約

ブドウ晩腐病菌(Colletotrichum gloeosporioides)の分生胞子形成には希釈したオートミール寒天培地(希釈OMA培地)が適しており、菌糸の細かい断片を希釈OMA培地上に塗布して培養することで、安定的に多量の分生胞子を得ることができる。

  • キーワード:ブドウ、晩腐病、Colletotrichum gloeosporioides、分生胞子形成
  • 担当:環境保全型防除・生物的病害防除
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 研究所名:果樹研究所・ブドウ・カキ研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ブドウ晩腐病は、伝染源となる分生胞子がブドウの生育期間を通じて起こるために、殺菌剤散布のみでは防除が困難な病害であり、本病被害軽減のために抵抗性品種の育成が望まれている。ブドウ晩腐病を引き起こす病原菌には二種類あり、一方のColletotrichum acutatumでは接種源である分生胞子を得やすいため、抵抗性の品種間差異がすでに明らかにされている。しかし他方のC. gloeosporioides(以下、Cg菌)では分生胞子形成が不安定であることから、抵抗性検定は未だ実施されていない。そこでCg菌の分生胞子形成条件を検討し、安定的に分生胞子を得るための培養法を開発する。

成果の内容・特徴

  • Cg菌株の分生胞子を形成させるための培地として、既製のオートミール寒天培地(OMA、ベクトン・ディッキンソン)のオートミール含量を15~20%に希釈したOMA培地(希釈OMA培地)が適している。ニンジンジュース寒天培地(CJA)やジャガイモ煎汁デキストロース寒天培地(PDA)で培養したときと比べ、分生胞子が安定して形成される(図1)。
  • さらに、ジャガイモ煎汁デキストロース(PDB)培地で一週間程度培養した菌糸体を培地ごとホモジナイザーで細断し、その菌糸断片懸濁液0.5mlを希釈OMA培地上に塗布して培養することで(図2)、より多量の分生胞子を安定して得られる。本法では、Cg菌の含菌寒天片を希釈OMA培地上に置床して培養する場合と比べ、10~100倍程度の分生胞子の形成が期待できる(図3)。
  • 本法では、培地表面に広く分生胞子が形成され(図4)、なおかつ培地表面に気中菌糸が生じにくいため、殺菌水で培地表面を洗い流すことで分生胞子懸濁液を容易に調製できる。調製された分生胞子懸濁液(5×103個/ml)をブドウ果粒に接種すると病斑が形成される。

成果の活用面・留意点

  • 本法は試験研究機関で利用可能であり、適時にブドウ晩腐病菌(Cg菌)の分生胞子懸濁液を調製できることから、抵抗性検定や薬効検定の効率的かつ安定的な実施に役立つ。
  • 本法は、リンゴ炭疽病菌、カキ炭疽病菌、カンキツさび果病菌(いずれもC. gloeosporioides)の分生胞子形成についても有効である。
  • 分生胞子を形成しにくくなった菌株に対しては、オートミール含量を50%程度に高めた希釈OMA培地を用いることで分生胞子を形成可能である。

具体的データ

図1 各種培地上での分生胞子形成量の比較図2 分生胞子形成までの流れ
図3 20%OMA培地上に含菌寒天片を置床した場合と菌糸断片を塗布した場合(コロニー破砕)の分生胞子形成量の比較 培養開始後7日目に分生胞子量を計測図4 菌糸断片(08080601株)を希釈OMA培地上で培養して形成された鮭肉色の分生胞子塊

(須崎浩一)

その他

  • 中課題名:生物機能等を活用した病害防除技術の開発とその体系化
  • 中課題番号:152a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:須崎浩一
  • 発表論文等:Suzaki K. (2011) J. Gen. Plant Pathol. 77(2):81-84