無病苗定植と圃場内および地域一斉防除によるグリーニング病の発生抑制

要約

カンキツグリーニング病常発地域において、無病苗の定植後に媒介虫ミカンキジラミの地域一斉防除と圃場内の慣行防除を継続すると、定植後5年経過してもシークワーシャーにおける同病の発生は低頻度にとどまる。

  • キーワード:カンキツグリーニング病、媒介虫、地域一斉防除、 無病苗、発生抑制
  • 担当:環境保全型防除・侵入病害虫リスク評価
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 研究所名:果樹研究所・品種育成・病害虫研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

カンキツグリーニング病は、カンキツの収量減ならびに樹の枯死をもたらす重要病害である。1988年に沖縄県で発生が確認されて以来、発生地域が拡大し、現在は奄美群島の一部にまで発生している。本病は、半翅目昆虫ミカンキジラミにより媒介され感染樹周辺のカンキツに感染拡大するほか、接ぎ木などの栄養体繁殖でも伝染する。現在まで本病に対する治療法は実用化されていないが、伝染源となる感染樹の早期発見・伐採、ミカンキジラミの薬剤防除、無病苗の利用、ミカンキジラミの地域一斉防除が有効であるとされている。しかし、これまでに、わが国において、無病苗利用、媒介虫の圃場内の慣行防除と地域一斉防除を組み合わせた防除体系の有効性は実証されていない。そこで、シークワーシャー栽培地域でありグリーニング病常発地域を対象に、無病苗とミカンキジラミに対する圃場内の慣行防除と地域一斉防除を組み合わせた防除体系を実践し、定植5年間グリーニング病の発生をモニタリングし、上記防除体系のグリーニング病発生抑制効果を実証する。

成果の内容・特徴

  • シークワーシャー無病苗の定植後に媒介虫ミカンキジラミの圃場内防除と地域一斉防除を5年間継続する。地域一斉防除は、定植後2年間は、年2回のMEP乳剤散布、3年目以降は、年1回のマシン油散布および6~7月のDMTP乳剤散布を継続する。圃場内の防除で使用する殺虫剤・散布時期は沖縄県の防除基準に従う(表1)。
  • シークワーシャー栽培地域でありグリーニング病の罹病樹が多数存在する沖縄県大宜味村田港集落に2006年に設置した無病苗定植圃場(図1)において、上記防除体系を実践した。PCRによる検定で、定植後2008年までの2年間はグリーニング病の発生は認められず、定植5年後の2011年にグリーニング病以外の原因で除去された2樹を除く23樹についても3樹の感染にとどまっている(図2)。
  • 無病苗定植圃場内で調査開始から3年間で捕獲されたミカンキジラミ成虫は2007年に捕獲された3頭のみであり、2011年の調査でも10頭で、保毒虫は捕獲されない(表2)。また、集落内でも成・幼虫の発生はほとんど認められず、無病苗定植圃場から約60m北西に位置する1圃場でのみ捕獲されている。これらのことから、地域一斉防除によって圃場への保毒虫の侵入と圃場内の増殖が低減される。

普及のための参考情報

  • 普及対象
    シークワーシャー生産者、防除組織、および公立の防除所・試験研究機関。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等
    沖縄県内のグリーニング病発生地域内のシークワーシャー栽培地域(大宜味村、名護市を中心に約200ha)。
  • その他
    本防除体系の説明資料は、生産者、防除組織、公立の防除所・試験研究機関に配布する。

具体的データ

図1 田港地区における無病苗定植圃場の位置図2 無病苗定植圃場のカンキツ樹配置図

表1 2006~2008年に実施した無病苗定植圃場の防除時期と薬剤、処理方法

表2 無病苗定植圃場内におけるミカンキジラミの捕獲頭数および保毒頭数

(上地奈美、岩波 徹)

その他

  • 中課題名:侵入病害虫等の被害リスク評価技術の開発および診断・発生予察技術の高度化
  • 中課題番号:152e0
  • 予算区分:交付金、農林水産研究高度化事業
  • 研究期間:2006~2011年度
  • 研究担当者:上地奈美、加藤 寛、岩波 徹、藤川貴史、安田慶次(沖縄農研セ)、大石 毅(沖縄農研セ)、山田義智(沖縄農研セ)、上里卓己(沖縄防技セ)、河野伸二(沖縄防技セ)