ニホンナシの樹体ジョイント仕立てにおける樹体間の窒素移行

要約

ニホンナシの樹体ジョイント仕立てでは、各樹の根から養水分が吸収されている場合、接ぎ木で隣接した樹体間の窒素移行は少ない。主幹の切断等により根からの養水分供給が遮断されると、隣接樹からの窒素移行量が増加する。

  • キーワード:ニホンナシ、樹体ジョイント仕立て、重窒素トレーサー法、窒素移行
  • 担当:果樹・茶・ナシクリ等
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・栽培・流通利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

早期成園が可能で、省力的栽培技術として注目されている樹体ジョイント仕立ては、樹の主枝の先端部と隣接樹の主枝の基部とを接ぎ木で連結することを繰り返し、連続した直線状の主枝を形成する仕立て法である。樹体ジョイント仕立てには、均一的な果実生産が可能である、主幹部を切断して樹勢調節が行えるなどの特徴が報告されているが、それらの特徴を考える場合、ジョイントされた樹体間における養水分の流れを把握しておく必要がある。そこで、ニホンナシの樹体ジョイント仕立てにおける樹体間の窒素移行について明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 2年生ニホンナシ「幸水」の3連ジョイントポット樹(図1)を用いて基部樹に重窒素標識(15N)硫安を施肥すると、中間樹の主幹を切断しない無処理区では隣接樹である中間樹への窒素移行はほとんどないが、同主幹を切断する基部樹施肥区では基部樹から中間樹へ窒素が移行する(図2)。一方、中間樹の主幹を切断し、先端樹に15Nを施肥する先端樹施肥区において、窒素は先端樹から中間樹へ移行するが、基部樹へはほとんど移行しない(図2)。
  • 3連ジョイントポット樹において、中間樹について主幹を切断することなく根からの養水分供給を遮断した場合、基部樹に施肥した15Nは中間樹へは移行するが、養水分が供給されている先端樹へはほとんど移行しない(図3)。ほ場での栽培中に何らかの要因で根が働かなくなった場合でも、ジョイント仕立てでは接ぎ木部を通した隣接樹からの養水分供給が期待できる。
  • ほ場に植栽された6年生ジョイント樹において、中間樹に15N硫安を施肥すると、隣接樹への窒素移行は隣接樹の主幹を切断する前(2009年5月)はわずかであるが、切断2カ月後(2009月7月)には増加する(図4、2009年5月切断区)。ただし、無切断樹においても、主幹部に接ぎ木した隣接樹先端へ施肥した窒素の移行は、無切断樹においても認められる(図4、無切断区c樹→d樹)。

成果の活用面・留意点

  • 樹体ジョイント仕立てにおける主幹切断は樹勢抑制技術の一つであり、一般的な仕立て法では樹勢が旺盛で間引きが必要な場合、樹体ジョイント仕立てでは主幹切断を行うことにより、樹勢を落ち着かせることができる。ただし、夏季など主幹を切断する時期によっては樹体に大きな影響を与えるおそれがある。
  • 本成果から、樹体ジョイント仕立てにおいて肥料を施用する場合、各樹に肥料を与える必要がある。

具体的データ

 図1~4

その他

  • 中課題名:高商品性ニホンナシ・クリ及び核果類の品種育成と省力生産技術の開発
  • 中課題番号:142a0
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2006~2010年
  • 研究担当者:井上博道、梅宮善章、弦間洋(筑波大院)、関達哉(神奈川農技セ)、柴田健一郎(神奈川農技セ)
  • 発表論文等:井上ら(2012)土肥誌、83:658-663