ニホンナシ葉緑体ゲノムの全塩基配列決定

要約

ニホンナシ「豊水」の葉緑体ゲノムの全塩基配列は、159,920塩基対から構成され、合計113の遺伝子をコードしている。リンゴやモモの葉緑体ゲノムと比較し、ニホンナシ特有の多型領域が存在する。

  • キーワード:ニホンナシ、葉緑体ゲノム、全塩基解読
  • 担当:果樹・茶・果樹ゲノム利用技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・品種育成・病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

植物の光合成器官である葉緑体は、約150,000塩基対(bp)の環状DNAゲノムを持っている。光合成が主要な機能であるが、植物の生育にとって必要不可欠なアミノ酸や脂肪酸などの代謝産物の合成の場でもある。 葉緑体は母性遺伝すること、コピー数が多く、また塩基配列の保存性が高いという特徴を持つため、系統識別や集団遺伝解析などの系統進化研究、DNAバーコーディングによる種の同定にも利用されている。バラ科果樹ではこれまでに葉緑体ゲノムの全塩基配列の報告がないことから、ニホンナシ「豊水」の葉緑体ゲノムの全塩基配列を解読し、遺伝子情報や機能について明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ニホンナシ「豊水」の葉緑体ゲノムの全塩基長は159,920 bpであり、19,234 bpの大単一コピー領域(LSC)と87,902 bpの小単一コピー領域(SSC)、および両者に挟まれた26,392 bpの逆位反復配列(IRa/IRb)から構成される(図1)。
  • 遺伝子領域の予測から、ニホンナシ「豊水」の葉緑体ゲノムは、1種類のrRNA遺伝子、20種類のアミノ酸に対応する30種類のtRNA遺伝子、75種類のタンパク質をコードする遺伝子、4種類の未同定遺伝子の合計113種類の遺伝子をコードする。そのうち、17遺伝子は逆位反復配列内で重複し、18遺伝子はイントロンを有する。
  • 部分的に解読されているモモやリンゴの葉緑体ゲノム配列との比較により、リンゴとはndhC-–trnV遺伝子間領域において高い割合で塩基の変異が存在する。逆位反復配列領域では、モモと比較してIRa/LSCジャンクションで62 bpが欠失している。IRaの末端から、LSCの末端に座乗するtrnH遺伝子までの長さはニホンナシ、リンゴ、モモの間で数十bpの変異が存在する。

成果の活用面・留意点

  • ニホンナシ「豊水」の葉緑体全塩基配列情報は、公的遺伝子データベースに登録済みである(GenBank/EMBL/DDBJ accession number: AP012207)。
  • 「豊水」の葉緑体全塩基配列は、ニホンナシ共通のものではなく、他品種では変異領域(多型領域)が存在する可能性がある。
  • ニホンナシ「豊水」葉緑体の全塩基配列情報は、種判別などを目的としたDNAバーコーディングへの利用が可能である。

具体的データ

 図1

その他

  • 中課題名:果樹におけるDNAマーカー育種のための高度基盤技術の開発
  • 中課題番号:142g0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:寺上伸吾、松村有一郎(神戸大)、片寄裕一(生物研)、片山寛則(神戸大)、山本俊哉
  • 発表論文等:Terakami S. et al. (2012) Tree Genet. Genomes 8:841–854.