遺伝子機能の解明やDNAマーカー開発に有効なカンキツのゲノム情報

要約

カンキツの発現遺伝子情報のうち67.6~81.9%の機能が推定され、86.1%がゲノム配列と対応づけられる。SSR候補はESTでは144,000件、ゲノム配列では382,000件見いだされる。17品種間のSNPの頻度から、品種間の広い遺伝的多様性が示唆される。

  • キーワード:カンキツ、ゲノム配列、遺伝子機能予測、多型情報、遺伝的多様性
  • 担当:果樹・茶・果樹ゲノム利用技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-6435
  • 研究所名:果樹研究所・カンキツ研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

日本を含む国際コンソーシアムのこれまでの取り組みからカンキツの遺伝子情報の集積が進み、得られたゲノム情報は重要果実形質等に関わる遺伝子を網羅的に探索してその機能を予測するうえで重要な知見となる。さらに、ゲノム配列中に見いだされる品種間の多型情報は高精度なDNAマーカー開発を可能にし、遺伝連鎖解析を通じた重要果実形質等の座乗位置の推定と選抜マーカーの開発、およびその育種利用と候補遺伝子領域の推定など幅広い貢献が期待される。そこで本研究では、カンキツのゲノム配列情報に見いだされる遺伝子の機能を推定し、また多型情報を網羅的に収集してその特性を明らかにすることで高精度なDNAマーカー開発の基礎的知見を得ることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 公的遺伝子情報データベースに登録されているカンキツの発現遺伝子情報(EST)のうち、67.6~81.9%がモデル植物の既知遺伝子と相同性を示し、そのうちスイートオレンジの部分ゲノム配列中に見いだされるのは86.1%である。また、54.6~65.7%が遺伝子オントロジ(GO)にもとづいて機能が予測され、4.4~22.2%が既知の代謝経路や遺伝子ファミリ、転写因子遺伝子と関連づけられている(表1)。
  • カンキツの発現遺伝子配列情報(EST)とスイートオレンジの部分ゲノム配列情報から、2塩基以上の単純反復配列が3回以上繰り返している領域(SSR)はそれぞれ144,000件と382,000件見出される。その単純反復配列領域を反復配列長ごとに整理すると、ESTではコドンの読み枠である3の倍数をモチーフとするもので多いが、ゲノム配列ではそのような特徴は認められない(図1)。ESTおよびゲノム配列からSSRマーカーを開発する場合にはこの特徴の違いを考慮することが重要となる。
  • 17品種から得られた相同な遺伝子の配列比較をもとに推定された一塩基の多型(SNP)は、2~4品種間での比較では100bpあたり平均で2ヶ所程度の頻度であるが、13品種間での比較では9.8ヶ所程度にまで平均頻度が増加することから、カンキツでは品種間の遺伝的多様性が広いことが示唆される(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 発現遺伝子情報の機能分類に関する知見は、重要遺伝子の探索やその機能評価、高精度DNAマイクロアレイ開発などに利用できる。
  • 単純反復配列の分布や一塩基多型の品種間差に関する知見は、高精度なDNAマーカー(SSRマーカーやSNPマーカー)の開発と遺伝連鎖解析に利用できる。
  • 発表論文(総説)では、早期開花性とその利用、カンキツの多胚性、病害抵抗性などに関してこれまで得られている知見を整理して紹介している。

具体的データ

 表1,図1~2

その他

  • 中課題名:果樹におけるDNAマーカー育種のための高度基盤技術の開発
  • 中課題番号:142g0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2008~2012年度
  • 研究担当者:清水徳朗
  • 発表論文等:Gmitter, F. G. et al. (2012) Tree Genet. Genomes 8:611-626.