eQTL解析により明らかとなったカンキツの新規カロテノイド代謝調節因子候補

要約

カンキツのカロテノイド代謝遺伝子のフィトエンディサチュラーゼとζ-カロテンディサチュラーゼの遺伝子発現制御は共にTf0271の遺伝子座に含まれる転写調節因子の影響を受ける可能性がある。

  • キーワード:カンキツ、カロテノイド、eQTL解析、遺伝子発現
  • 担当:果樹・茶・果樹ゲノム利用技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・カンキツ研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ウンシュウミカンに豊富に含まれるβ-クリプトキサンチン(β-CRP)は、発がんの抑制、骨粗鬆症や糖尿病などの生活習慣病の予防に役立つことが明らかになっている。一方でこれまでの研究により、カロテノイド代謝に関わる生合成遺伝子の発現量比がカロテノイドの組成や含量に影響を及ぼし、各生合成遺伝子のアレル間の発現量比はシス因子やトランス因子により制御されることが明らかになっている。β-CRPの高含有化にはβ-CRPよりも上流の生合成遺伝子の発現量が高く、下流の生合成遺伝子の発現量が低い組合せを持つ系統を選抜することが重要である。本研究ではβ-CRPの高含有系統のDNAマーカー選抜に向けて、各々の生合成遺伝子について発現量を制御する主な要因を発現遺伝子のQTL(eQTL)解析により明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 果肉中のカロノテイド含有量に分布がみられる交雑集団(A255×G434)54個体を用いて、フィトエン合成酵素(PSY)、フィトエンディサチュラーゼ(PDS)、ζ-カロテンディサチュラーゼ(ZDS)、リコペンβ-サイクラーゼ(LCYb)、β-リングハイドロキシラーゼ(HYb)、ゼアキサンチンエポキシダーゼ(ZEP)、9-cis-エポキシカロテノイドジオキシゲナーゼ(NCED)の7種類のカロテノイド代謝遺伝子の発現量をQTL解析すると、PSY、HYb、ZEP、PDSおよびZDSの遺伝子については、主要なeQTL座をマッピングすることができる(図1)。
  • PSY、HYb、ZEPの遺伝子の発現量の主要なeQTL座は、各々の遺伝子の遺伝子座にマッピングされたことから、これらの遺伝子の発現はシス因子の制御を受けると考えられる(図1、表1)。
  • PDSとZDSの遺伝子の発現量の主要なeQTL座は、各々の遺伝子の遺伝子座ではなく、転写調節因子のホモログを持つTf0271の遺伝子座にマッピングされたことから、これらの遺伝子の発現はトランス因子の制御を受けると考えられる(図1、表1)。
  • Tf0271の遺伝子座はPDSとZDSの両遺伝子の発現量と強く相関することから、遺伝子座に含まれる転写調節因子がカンキツのカロテノイド代謝に関わる新規の転写調節因子であると期待できる。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で得られた知見をもとに、アレル識別マーカーの開発やカロテノイド代謝に関わる新規の転写調節因子の解明を進めることで、β-CRPの高含有系統を選抜するDNAマーカーの開発が期待できる。
  • 本研究で用いた解析集団では、LCYbとNCEDの遺伝子の発現量に分布がみられないため、両遺伝子の発現制御に及ぼす主な要因は不明である。

具体的データ

図1~,表1~

その他

  • 中課題名:果樹におけるDNAマーカー育種のための高度基盤技術の開発
  • 中課題整理番号:142g0
  • 予算区分:交付金(二次代謝成分、機能性園芸)
  • 研究期間:2004~2013年度
  • 研究担当者:島田武彦、杉山愛子(静岡大)、遠藤朋子、藤井浩、野中圭介、吉岡照高、清水徳朗、根角博久、生駒吉識、大村三男(静岡大)
  • 発表論文等:Sugiyama A. et al. (2014) J. Japan. Soc. Hort. Sci. 83(1):32-43