土着カブリダニ類に対するチャ、イヌマキ花粉の代替餌としての有用性

要約

チャ花粉は多くのカブリダニ種にとって有用な代替餌であり、イヌマキ花粉やトウモロコシ花粉に比べて発育が良好で産卵数も多い。イヌマキ花粉は少数のカブリダニ種にのみ有用であるが、チャ花粉に比べて25°C多湿条件下でも長期間餌として利用可能である。

  • キーワード:カブリダニ、代替餌、花粉、ハダニ、土着天敵
  • 担当:環境保全型防除・天敵利用型害虫制御
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・リンゴ研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

現在、日本国内で90種以上のカブリダニが知られている。それらの多くはハダニ類、サビダニ類およびアザミウマ類などの重要微小害虫を捕食するため、有望な土着天敵として期待されている。野外でカブリダニ類を害虫防除に利用する場合、害虫が低密度の時期にカブリダニ個体群を維持あるいは増強することが不可欠であり、そのためには簡便に利用できる代替餌の確保が重要である。そこで、入手が比較的容易な花粉に着目し、中でも有用性が示唆されているチャ、カンキツ園の主要防風樹であるイヌマキ、および果樹園の主要下草であるイネ科雑草の代用としてトウモロコシの花粉を用いて、カブリダニ類に対する代替餌としての利用可能性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 農生態系で多く観察される土着カブリダニ7種(ミヤコカブリダニ、ケナガカブリダニ、ニセラーゴカブリダニ、コウズケカブリダニ、ケブトカブリダニ、フツウカブリダニ、ミナミカブリダニ)にチャ花粉を餌として与えると、いずれの種でも発育が良好であり、産卵数も多い(図1、表1)。
  • これらのカブリダニ類にイヌマキ花粉を与えると、ニセラーゴカブリダニ、フツウカブリダニ、ミナミカブリダニは良好に発育し産卵も認められるが、他の種はほとんど餌として利用できない(図1、表1)。
  • トウモロコシ花粉を与えた場合、コウズケカブリダニ以外の種では発育・産卵が可能である。しかし、ニセラーゴカブリダニを除き、チャ花粉を与えた場合と比べて発育期間が長く、産卵数も少ない(図1、表1)。
  • 品質が劣化しやすい25°C多湿条件下に3植物種の花粉を14日間放置して餌としてニセラーゴカブリダニとミヤコカブリダニに与えた場合、イヌマキ花粉はニセラーゴカブリダニの発育・産卵に有効であり、2週間程度餌として利用可能である(表2)。一方、ミヤコはいずれの花粉も餌として利用できない。

成果の活用面・留意点

  • チャ花粉やイヌマキ花粉は、土着カブリダニ類の野外での強化技術や室内での大量増殖法の確立に向けた有望な代替餌となる可能性がある。
  • チャ花粉は、多くのカブリダニ種が良好な餌として利用できることから、室内での累代飼育や増殖のための餌として適している。一方、チャの開花期は晩秋であり、ほとんどの土着カブリダニ種は休眠に入って増殖を停止することから、野外での代替餌としての利用は困難である。
  • イヌマキは5月下旬から6月上旬に開花して大量の花粉をカンキツ園に飛散させ、また比較的長期間餌としての質を維持していることから、減農薬・無農薬園で発生するニセラーゴカブリダニの初夏の密度上昇に貢献していると考えられる。
  • チャ、イヌマキ、トウモロコシのいずれの花粉も、採集後-20°Cで冷凍保存することで長期間(少なくとも1年程度)代替餌としての品質の維持が可能である。

具体的データ

図1,表1~2

その他

  • 中課題名:土着天敵等を利用した難防除害虫の安定制御技術の構築
  • 中課題整理番号:152b0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(土着天敵)
  • 研究期間:2004~2012年度
  • 研究担当者:岸本英成、大平喜男、足立礎
  • 発表論文等:Kishimoto H. et al. (2014) Appl. Entomol. Zool. 49:19-25