カンキツの転写因子遺伝子CubHLH1はトマト果実のカロテノイド代謝を変化させる

要約

カンキツ果実においてカロテノイド生合成遺伝子と連動して発現する転写因子遺伝子CubHLH1は、植物ホルモンのブラシノライドのシグナル伝達に関わる遺伝子と類似した構造と機能を有し、トマトで過剰発現させると成熟果実のカロテノイド組成が変化する。

  • キーワード:カロテノイド、転写因子、遺伝子導入、カンキツ、トマト
  • 担当:果樹・茶・果樹ゲノム利用技術
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・カンキツ研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

カロテノイドは植物の果実等に広く含まれる色素成分で、カンキツでは健康機能性を示すカロテノイドの1種β-クリプトキサンチン等を高含有化した新品種の育成が期待されている。これまでの研究で、カンキツ果実のカロテノイド含量および組成は、生合成遺伝子の転写産物の量比により影響を受けることが明らかにされている。一方、カロテノイド生合成遺伝子の転写制御機構は不明の点が多い。そこで本研究では、カンキツのカロテノイド生合成遺伝子と発現の挙動を共にする転写因子遺伝子を単離して、その機能を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • カンキツ果実では成熟期にカロテノイドが蓄積し果皮が着色する。この時期の果実に外生ジベレリン(GA)処理を行うと着色が抑制され、エチレン処理を行うと着色を促進し、カロテノイド生合成遺伝子の発現もこれらと連動する。カンキツのマイクロアレイを用いた遺伝子発現の網羅的な解析から、1つのbasic helix-loop-helix(bHLH)型転写因子遺伝子の発現が果実のGA処理により抑制、エチレン処理により上昇し(図1)、果実の成熟後期にも上昇する。この遺伝子CubHLH1の推定アミノ酸配列は、シロイヌナズナにおいて、植物ホルモンのブラシノライド(BR)のシグナル伝達に関わるArabidopsis activation-tagged bri1 suppressor 1 (ATBS1) interacting factor (ATBS1-Interacting factor: AIF)と高い相同性を示す。
  • シロイヌナズナにおいてAIFは、ATBS1とのタンパク質間相互作用を通じてBRシグナル伝達を負に制御する。カンキツのAIFホモログであるCubHLH1は、シロイヌナズナATBS1およびトマトTcATBS1とのタンパク質間相互作用を示す。また、CubHLH1を過剰発現するトマト遺伝子導入体は矮性となり、葉色は濃色化する(図2)。これらの形態変化は、シロイヌナズナAIFを過剰発現するシロイヌナズナ遺伝子導入体と類似する。
  • トマト遺伝子導入体の成熟果実では、野生型(非遺伝子導入体)と比較してカロテノイド組成および、カロテノイドの代謝産物である植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)含量が変化する(図3)。一方カロテノイド生合成遺伝子は、遺伝子導入体において少なくとも4種類の遺伝子発現が上昇する(図4)。これらのことから、CubHLH1の過剰発現はカロテノイド代謝酵素遺伝子の発現を上昇させ、カロテノイド代謝を促進するため、トマト成熟果実では主要成分リコペンの代謝が進みABAが増加すると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 単離したCubHLH1のアクセッション番号は、LC031782である。
  • CubHLH1タンパク質は、シロイヌナズナ(AtbHLH147)およびトマト(SlbHLH147)のAIFと同様のタンパク質間相互作用を示すため、CubHLH1はカンキツのBRシグナル伝達に機能していることが予想されるが、詳細についてはさらなる検討が必要である。

具体的データ

その他

  • 中課題名:果樹におけるDNAマーカー育種のための高度基盤技術の開発
  • 中課題整理番号:142g0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間:2006~2015年度
  • 研究担当者:遠藤朋子、藤井浩、杉山愛子、中野道治、中嶋直子、生駒吉識、大村三男(静岡大農)、島田武彦
  • 発表論文等:Endo T. et al. (2016) Plant Sci. 243:35-48