寒地の乾田播種早期湛水直播水稲の収量安定のための窒素施肥技術

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要約

寒地の水稲乾田播種早期湛水直播(乾田直播)では、早生品種を早期播種した上で、速効性肥料の側条施肥 6~8kgN/10aと肥効調節型肥料(被覆尿素40日タイプ)2kgN/10aを使用すると生育量が早期に確保され、安定高収が得られる。

  • 担当:北海道農業試験場・生産環境部・水田土壌管理研究室
  • 連絡先:01266-3-3005
  • 部会名:生産環境
  • 専門:肥料
  • 対象:稲類
  • 分類:指導

背景・ねらい

寒地の直播水稲は生育期間が短いため、多肥条件では出穂や登熟の遅延、倒伏をまねくなど、不良環境による減収度が大きくなりやすい。苗立数と穂数を増加することにより着粒数の増加をねらっても、1穂粒数が減少するのである限度以上に粒数を増加することは困難である。このような寒地直播の低収不安定性を改善するため、乾田播種早期湛水直播による栄養生長量の早期確保や生育特性に応じた効率的施肥法を検討した。

成果の内容・特徴

北海道農業試験場が開発した乾田播種早期湛水直播は、乾田状態で砕土・整地、側条施肥、播種・覆土、鎮圧を同時に行い、その後湛水を比較的早期(湛水開始適期は美唄で平均気温が11.5℃になる5月16日~20日に相当)に行って保温効を高める。

  • 早期乾田播種栽培(4/21~5/4播種)では、幼芽伸長10mmに必要な有効積算温度90℃を湛水前に得ることができる(表1)。湛水開始は出芽障害温度(10℃以下)の出現頻度から、平均気温11.5℃を以て湛水開始適期としている。
  • 寒地直播水稲の収量水準は生育前期の栄養生長期間における生育経過に支配される。安定高収を得るには出芽から分けつ初期(6葉期)の窒素含有率(4%≦)をできるだけ高くし、分けつ初期から幼穂形成期にかけて窒素濃度を高めずに栄養生長量を大きくすることが重要である(図1)。
  • 被覆尿素(40日タイプ)の溶出は、80%溶出にほぼ80日を要し、出穂期頃まで持続性がみられる。溶出期間は7月中旬頃が最も高く、幼穂形成期を中心とした漸増施肥のような効果が得られる(図2)。
  • 側条施肥による初期の栄養改善効果は大きく、受光態勢の良い状態で栄養生長量が高まって肥効調節型肥料の効果も著しく向上する。これにより下位分けつと穂数、1穂籾数が確保でき登熟性もよく、移植水稲を上回る安定高位生産が可能である(表1)。
  • 無機質表層低位泥炭土水田における穂数型早生品種「ゆきまる」の場合でも、速効性肥料の側条施肥6~8KgN/10aによる栄養改善効果が大きく被覆尿素(40日タイプ)2kgN/10aの併用により、総籾数が多くなり増収効果が高い(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 収量の安定は生育初期(6葉期)の栄養条件による影響が大きいため、出来るだけ早期播種を行い、栄養制御効果を高めることが重要となる。
  • 穂数型早生品種の移植は籾数が少なく、多肥では登熟性の悪化を招きやすいが、直播では標準施肥量を側条施肥することにより栄養改善効果が高まる。
  • 表面施用した速効性の基肥窒素は利用率が低下するため、側条施肥の位置は3~5cm(適窒素量6kgN/10a)が望ましい。
  • 被覆尿素量は土壌窒素の供給量や気象変動の影響を考慮して調節する必要がある。

具体的データ

表1.乾田直播水稲の栄養生長量が収量に及ぼす影響

 

図1.直播水稲の収量水準と乾物生産様式

 

図2.暖効性窒素の溶出経過

 

表2.施肥方法が乾田直播水稲の収量構成要素に及ぼす影響

 

その他

  • 研究課題名:寒地の水稲乾田播種早期湛水直播における安定多収要因の解明と省力技術の開発
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成7年度(昭和60年~63年、平成6年~9年)
  • 発表論文等:寒地直播水稲の安定多収生産技術、土肥誌講演要旨集34、1987
  • 乾田播種出芽前入水直播栽培、技術情報協会、1995