草地緩衝帯による地下水水質の保全

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要約

地下水中の硝酸性窒素濃度は生産性を維持した草地を通過すると、急速に減少する。草地の浄化能は植生の有無や地下水位の高低により異なる。硝酸性窒素負荷量が1.7kgN/日・100m長通水断面程度までであれば、約30m幅の草地緩衝帯により窒素濃度を10mgN/L以下に浄化可能である。

  • 担当:北海道農業試験場・草地部・上席研究官室
  • 連絡先:011-857-9237
  • 部会名:生産環境
  • 専門:環境保全
  • 対象:分類:指導

背景・ねらい

農業由来と考えられる地下水・水系の硝酸性窒素の汚染は北海道でも顕在化しつつある。そこで、草地などが持つ自然の地下水浄化能を適切に評価し、浄化に必要な草地緩衝帯の必要幅を検討する。

成果の内容・特徴

  • (試験方法)畑地(トウモロコシ畑)の斜面下方に採草地を配置し、畑地標準施肥区と草地区を組み合わせた「標準施肥区」、畑地2倍施肥区と草地区との「2倍施肥区」、畑地標準施肥区と草地に除草剤を散布した裸地区との「除草剤区」の3処理区を設けた(1区200m×70m)。各処理毎に概ね最大傾斜方向に調査線(200m)を設定し、地下2m迄の採水管を埋設し(-75m、-45m、0m、25m、50m、75m、100m地点: mは畑地草地境界よりの距離)、各地点の標高を測量により求めた。本圃場の地下約2mに難透水層がある。4週間毎に地下水位を測定し、地下水を採取し、分析した。地下水流量はダルシー則により算出した。窒素収支は畑地標準施肥区で16~17kgN/10a、2倍施肥区で27~29kgN/10a投入量が多く、草地で1kgN/10a持ち出し量が多かった。除草剤区では降水による負荷量1kgN/10aのみであった。なお、草地の収量水準は乾物生産量で800kg/10a程度であった。
  • 地下水流出は地下水位が約1m以深の流出と1m以浅、地表近くまで上昇する大量降雨時および春の融雪時の流出に分けられる(表1、図1)。畑地からの窒素流出は1m以浅の流出時に増加する。
  • 草地を通過すると地下水中窒素濃度は急激に減少する(図2)。この減少度合いを地下水位が1m以深および1m以浅の流出時につき平均化した曲線で表し、この曲線から濃度が10mgN/Lになる草地通過距離(草地緩衝帯の幅)を、草地区、除草剤区それぞれにつき求めた。畑地・草地の境界を地下水が通過する断面(通水断面)100m当たりの窒素負荷量と草地緩衝帯幅との関係をみると、1m以深の流出時には窒素負荷量に応じて緩衝帯幅は増加する(図3●)。除草剤区でも同様の関係があるが、浄化能は草地区より低い(図3▲)。
  • 草地区では、地下水位が約0.5m程度まで(図3○)、更に地表近くまで(図3○矢印)上昇すると、段階的に窒素浄化能は増加する。しかし、除草剤区では地下水位が0.5m迄上昇したときの浄化能は1m以深の流出時とほぼ同じで(図3△)、0.5m以浅に上昇したときにのみ浄化能が高まる(図3△矢印)。この様に、植生の有無や地下水位の高低が草地の緩衝能に大きく影響する。
  • 以上の結果、乾物生産量を800kg/10a程度に維持するよう施肥管理された草地を緩衝帯として使用する場合、流入する地下水中硝酸性窒素負荷量が1.7kgN/日・100m長通水断面程度までであれば、硝酸性窒素濃度を10mgN/L以下に浄化可能な草地緩衝帯の必要幅は約30mである。

成果の活用面・留意点

本成果は、地下水位が2m以浅に維持されている採草地を、その生産性を維持しつつ地下水水質を保全するための緩衝帯として使用するときに活用できる。

平成11年度北海道農業試験会議成績会議における課題名及び区分 課題名:草地緩衝帯による地下水水質の保全(指導参考事項)

具体的データ

表1.地下水位(地表から深さcm)の推移:網掛け部分は畑地45m又は境界0m地点の地下水位が100cm以浅

 

図1.100m長の通水断面を通過する地下水流量の季節変化

 

図2.地下水中硝酸性窒素濃度

 

図3.窒素負荷量と地下水中硝酸性窒素濃度が10mg/Lになる緩衝帯幅の関係

 

その他

  • 研究課題名:草地の環境保全機能の解明
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成6年~11年度(平成6年~11年)
  • 研究担当者:早川嘉彦、寳示戸雅之、金澤健二
  • 研究論文等:
    Proceedings of the 11th CIEC World Fertilizer Congress on Fertilization for Sustainable Plant Production and Soil Fertility、 2巻、498-502、(1998) 土壌の物理性、第76号、39-45、(1997)