小麦粉の生地物性を強める低分子量グルテニン遺伝子のPCRマーカー

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要約

分子量約42kDaの低分子量グルテニンサブユニット(LMW-GS 42K)は小麦粉の生地物性を強める。また、このサブユニットは高分子量グルテニンサブユニット5+10(HMW-GS 5+10)と相加的に作用して生地物性を強くする。このLMW-GS 42K遺伝子をPCRで簡便に検出することが出来る。

  • キーワード:小麦、超強力性、低分子量グルテニンサブユニット、マーカー、PCR、育種
  • 担当:北海道農研・地域基盤研究部・育種工学研究室/畑作研究部・麦育種研究室
  • 連絡先:電話 011-857-9478、電子メール maruwaka@affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・基盤研究、作物・生物工学
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

小麦粉の生地物性が強い超強力小麦および強力小麦はパン・麺等に広く利用出来るが、北海道での栽培に適した品種は十分揃っていない。小麦 粉の生地物性には高分子量グルテニンサブユニット(HMW-GS)の他に、低分子量グルテニンサブユニット(LMW-GS)が関与している。本研究では、 (超)強力性に関与するLMW-GSを同定し、(超)強力小麦品種の育種に利用できる分子マーカーの開発を行う。

成果の内容・特徴

  • 超強力春まき小麦「Glenlea」および超強力秋播き小麦「KS831957」はHMW-GS 5+10とLMW-GS 42Kを持ち、LMW-GS 42K遺伝子の対立遺伝子に由来するLMW-GS 48Kを持つものより強い生地物性を示す(表1)。
  • LMW-GS 42K はHMW-GS 5+10と相加的に作用して生地物性を強める(表2)。
  • 小麦の幼葉から煮沸法により簡便にDNAを抽出し、低分子量グルテニン遺伝子の塩基配列をもとに設定した順方向プライマー HaruF1:5'-CCATCCAACAACAACCACACCA-3'と逆方向プライマーHaruR1:5'- CCCGAGTTGCTGTTGTGACTGC-3'の組み合わせでPCRを行うと、LMW-GS 42Kを持つ品種・系統に対して特異的に692bpのDNA断片が、LMW-GS 48Kを持つ品種・系統に対して特異的に839bpのDNA断片が増幅する(図)。
  • 春まき小麦「春のあけぼの」と「Glenlea」を交配して得られたB5F2世代の65個体および秋播き小麦「ホロシリコム ギ」と「KS831957」の交配に由来する「勝系32号」(LMW-GS 48Kを持つ)と「勝系34号」(LMW-GS 42Kを持つ)のRIL(F6)の71のホモ系統に対して3.の方法でPCRを行うと、LMW-GS 42K を持つ個体に対して特異的に692bpのDNA断片が、LMW-GS 48Kを持つ個体に対して特異的に839bpのDNA断片が増幅する(図)。

成果の活用面・留意点

  • 超強力小麦系統および強力小麦系統を育成する際に本マーカーを用いれば、鉢上げ前の幼葉でサブユニット組成を予測出来るため、大幅に育種を効率化することが出来る。

具体的データ

表1 小麦系統のグルテニン組成と生地物性

 

表2 勝系32号×勝系34号に由来するRIL(F)のグルテニン組成と生地物性

 

図 遺伝子型の異なる個体のLMW-GS構成(上)とPCR産物(下)。

 

その他

  • 研究課題名:小麦粉の物性改善を目的とする低分子量グルテニン遺伝子の単離と機能の解明/北海道に適応する超強力・強力(硬質)秋播小麦品種の開発
  • 課題ID:04-08-01-01-10-03/04-03-02-01-06-03
  • 予算区分:交付金/新事業創出
  • 研究期間:2002~2004年度/2001~2005年度
  • 研究担当者:船附稚子、加藤明/田引正、高田兼則、伊藤美環子、西尾善太
  • 発表論文等:
    1)船附ら(2003) 特許出願2003-358310
    2)船附ら(2003) 特許出願2003-357538
    3)船附ら(2004) Plant Breeding(印刷中)