コムギの低温特異的に発現誘導される抗菌タンパク質遺伝子

要約

秋播きコムギより,植物ディフェンシン遺伝子(Tad1 )を単離した.Tad1 の発現は低温により誘導されるが,ジャスモン酸やサリチル酸では誘導されない.低温馴化過程で起こる耐病性の獲得に関係する.

  • キーワード:コムギ,ディフェンシン,γ-チオニン,低温馴化
  • 担当:北海道農研・地域基盤研究部・越冬ストレス研究室
  • 連絡先:電話 011-857-9382 電子メール rzi@affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・基盤研究,作物・生物工学
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

ムギ類など越冬性作物においては秋の低温遭遇により,耐凍性や耐病性等の越冬に必要な能力が飛躍的に増加する現象(低温馴化)が知られて いる.この植物が本質的にもつ耐性獲得機構の分子レベルでの理解は限られている.低温馴化の過程で誘導される生理学的,生化学的,形態学的変化とそれを支 配する遺伝子機能を関連させ,低温馴化現象の全体像を明らかにする研究が求められている.本研究ではコムギの低温馴化過程において発現する耐病性獲得の分 子機構を明らかにする.

成果の内容・特徴

  • コムギTad1 遺伝子は,植物ディフェンシン/γ-オニンをコードする(図1).
  • Tad1タンパク質はN末端にシグナルペプチドを持ち,成熟タンパク質の配列は植物ディフェンシンに特徴的な8個の保存されたCys残基を持つ(図1).
  • Tad1 遺伝子はクラウン組織において,低温馴化初期に発現誘導される.また幼苗においても,短時間の低温処理によって誘導され,その誘導にABAは本質的な関与をしない(図2).
  • Tad1 の発現は,ジャスモン酸やサリチル酸処理によって誘導されない.主要な感染シグナルには依存せず,低温シグナルにより活性化される新しいタイプのディフェンシンである(図3).
  • 組み換えTad1タンパク質は植物病原性細菌Pseudomonas cichorii の生育を阻害する(図4).また,紅色雪腐病菌(Microdochium nivale )に対して形態異常を誘導する.

成果の活用面・留意点

  • 冬作物が持つ低温遭遇による耐病性獲得機構の解明に利用できる.
  • 単離された遺伝子は新規ディフェンシン遺伝子として様々な作物の耐病性強化に利用できる.

具体的データ

図1 コムギTad1タンパク質のアミノ酸配列

 

図2 Tad1遺伝子の発現誘導

 

図3 メチルジャスモン酸及びサリチル酸処理によるTad1発現の変化

 

図4 精製Tad1タンパク質の抗菌活性

 

その他

  • 研究課題名:越冬性作物の持つ低温耐性獲得機構の解明
  • 課題ID:04-07-02-01-07-03
  • 予算区分: 交付金プロ(形態・生理)
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:今井亮三,小池倫也.津田栄(産総研)
  • 発表論文等:1)Koike et al. (2002) Biochem. Biophys. Res. Commun. 298:46-53.