土壌生息菌Pythium oligandrum の耐病性誘導物質の特性

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要約

Pythium oligandrum から抽出した細胞壁タンパク質画分(CWP)は、テンサイおよび小麦に対して耐病性誘導活性を有し、植物体の抵抗性関連酵素の活性増強や細胞壁へのフェノール物質(主にフェルラ酸)の沈着を促進する。

  • キーワード:Pythium oligandrum 、耐病性誘導、細胞壁タンパク質、テンサイ、小麦
  • 担当:北海道農研・畑作研究部・環境制御研究チーム
  • 連絡先:電話0155-62-9276、電子メールstake@affrc.go.jp
  • 区分:北海道・生産環境
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

現在の作物病害の防除は抗菌活性を持つ殺菌剤等を用いた薬剤防除が主体であるが、今後は自然環境と調和した持続的な農業システム構築の観点から、より環境負荷低減型の防除法開発が望まれている。土壌生息菌Pythium oligandrum (PO)は作物根に定着すると、多くの病害に対して有効に働く防御システムを誘導する。そこで、POの耐病性誘導を利用した防除法を開発するため、PO菌体より作物の耐病性機能を誘導する物質を探索する。

成果の内容・特徴

  • 耐病性誘導物質として、PO菌体より細胞壁タンパク質画分(CWP)を抽出した。POのCWPは菌株によりその組成が異な り、分子量約28,000と24,000の2種の主要タンパク質からなるもの(T-typeと呼称)と、分子量約27,000の1種の主要タンパク質から なるもの(S-typeと呼称)の2種類が存在する(図1)。これら3つの主要タンパク質は、互いに類似したアミノ酸配列および糖組成を有する糖タンパク質である。
  • テンサイの根をT-typeとS-typeのCWP水溶液に浸漬させ、12時間後に苗立枯病菌Rhizoctonia solani あるいはAphanomyces cochlioides を、また小麦の小花にCWPを注射処理して24時間後に赤かび病菌を、それぞれ接種すると、蒸留水(DW)処理区に比べて、各病害による発病程度が有意に抑制される(表1)。
  • テンサイの根をT-typeとS-typeのCWP水溶液に浸漬させると、いずれも処理4時間後にDW区に比べて植物体の フェニルプロパノイド合成系の鍵酵素であるフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)活性の顕著な増加が、テンサイの根部および胚軸部で認められる(図2)。また、処理12時間後には根部と胚軸部において溶菌酵素の一種であるキチナーゼ活性の増強も観察されるとともに(図3)、特にT-typeにおいては、病原菌の侵入に対する植物細胞の物理的強化に関与する細胞壁へのフェノール物質(主にフェルラ酸)の沈着も高まる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • POのCWPは、シロイヌナズナに処理しても防御関連遺伝子を発現させることから、多くの作物種に耐病性を誘導する可能性がある。
  • POのCWPのどのペプチド領域に耐病性誘導活性があるのかを特定できれば、多くの作物種に耐病性を誘導するプラントアクチベータ開発への道が開ける。

具体的データ

表1.2種のCWP処理による各種病害の発病抑制

 

図1 北海道の畑地から分離したPO菌株のCWPの電気泳動像 各レーンの数値は菌株番号を示す。

 

図2 POのCWP処理によるテンサイのPAL活性の変動 *DW区と5%で有意差がある (Dunnett法)。

 

図3 POのCWP処理によるテンサイのキチナーゼ活性の変動 *DW区と5%で有意差がある(Dunnett法)。

 

図4 POのCWP処理によるテンサイのフェノール物質含量の変動 *DW区と5%で有意差がある(Dunnett法)。

 

その他

  • 研究課題名:土壌生息菌Pythium oligandrum の作物に対する耐病性誘導機構の解明とその利用
  • 課題ID:04-04-02-01-09-03
  • 予算区分:Pythium耐病性誘導
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:竹中重仁、西尾善太
  • 発表論文等:
    1) Takenaka S, Nishio Z, Nakamura Y (2003) Phytopathology, 93:1228-1232.
    2)竹中重仁, 特開2003-081998.
    3)竹中重仁 (2002) 化学と生物40:774-776.