コムギの分岐型フルクタン蓄積に関わる新たなフルクタン合成酵素遺伝子

要約

ハードニング中のコムギから新規のフルクタン合成酵素遺伝子が単離され、これはフルクタンにβ(21)結合でフルクトースを転移する1-FFT遺伝子であり、特にβ(26)結合を含むフルクタンにフルクトースを付加し、1-SST、6-SFTとコムギの分岐型フルクタン形成を担う。

  • キーワード:コムギ、フルクタン、フルクタン合成酵素(1-FFT)
  • 担当:北海道農研・低温耐性研究チーム
  • 連絡先:電話011-857-9260、電子メールseikajyouhou@ml.affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・生物工学
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

コムギでは秋から根雪前にかけてのハードニング過程で組織のフルクタン蓄積量が増加することが耐凍性及び越冬能力や雪腐病抵抗性の向上に寄与する。多くの植物に蓄積するフルクタンがβ(21)結合直鎖のイヌリンであるのに対して麦類や寒地型イネ科牧草はβ(21)結合とβ(26)結合をもつ複雑な構造のフルクタンを蓄積することから、フルクタンが分岐することはそれらの越冬性と関連がある可能性がある。コムギのフルクタン構造と寒地適応性との関係を明らかにするために、これまでに単離した1-SST, 6-SFTに加えて1-FFT酵素遺伝子を単離し、ハードニング中の発現解析とそれぞれの酵素の分岐型フルクタン形成への役割を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 新たに単離された遺伝子はそれぞれ2304bp、2251bp、648個と644個のアミノ酸からなり、コムギフルクタン合成酵素遺伝子、1-SST(sucrose:sucrose 1-fructosyltransferase)と81%、6-SFT(sucrose: fructan 6-fructosyltransferase)と59%の相同性を示す 。
  • 単離遺伝子より作られた組み換えタンパク質は、スクロースや6-ケストースとは反応しない。また、1-ケストース、1,1-ニストース、1,1,1-フルクトシルニストースと反応してさらに高次のβ(21)結合直鎖のフルクタンを合成する活性を持つため、本酵素は1-FFT(fructan:fructan1-fructosyltransferase)である(図1)。
  • コムギの組み換え1-FFTはβ(26)結合をもつフルクタンにβ(21)結合でフルクトースを転移する傾向が高く、6-SFTの産物を利用して6,1-ニストース(i)、1&6,1-ケストペンタオース(l)、1,1&6,1-ケストヘキサオース(r)などを生産する。また、スクロースと1-ケストースを基質に両酵素を反応させるとハードニングしたコムギと同じ分岐型フルクタン組成が再現できる(図2)。
  • ハードニングしたコムギ組織では1-SST 、6-SFT、1-FFT遺伝子全てが発現しており、これらの酵素の働きでコムギの複雑な分岐型フルクタンが形成されることが示される(図3)。

成果の活用面・留意点

秋播きコムギでハードニング中に発現する新たなフルクタン合成酵素遺伝子が単離されたことにより、耐凍性・雪腐病抵抗性の向上に関与するフルクタン蓄積機構の解明につながる。

具体的データ

図1 コムギ組み換え1-FFT と1-ケストース(1)、1-ニストース(2)、1-フルクトシルニストース(3)を反応させた産物のクロマトグラム→は1-FFT による反応。物質略号は図2の説明参照。

図2 コムギのフルクタン組成と1-FFT の役割

図3(左) ハードニングした秋播きコムギ(12 月)のPI173438 組織でのフルクタン合成酵素遺伝子の発現のRT-PCR 解析

その他

  • 研究課題名:作物の低温耐性を高める代謝物質の機能解明とDNAマーカーを利用した育種素材の開発
  • 課題ID:221-e
  • 予算区分:組換え植物、基盤研究費
  • 研究期間:2002~2006年
  • 研究担当者:川上顕、吉田みどり
  • 発表論文等:1)Kawakami and Yoshida (2005) Planta, 21, 1-15
                      2)川上、吉田 (2006) 植物防疫, 60, 76-77