搾乳牛ふん尿の堆積型堆肥化過程における切り返し直後の一酸化二窒素排出機構

要約

搾乳牛ふん尿の堆積型堆肥化過程では、表層において硝化が活発に起こり、亜硝酸態および硝酸態窒素が蓄積する。これらの窒素酸化物は、切り返し後に主にバクテリアによって急激に還元(脱窒)され、N2O揮散の主要な要因となる。

  • キーワード:堆肥化、一酸化二窒素、アイソトポマー、アンモニア酸化菌
  • 担当:北海道農研・資源化システム研究北海道サブチーム
  • 代表連絡先:電話011-857-9260、電子メールseika-narch@naro.affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地、北海道農業・畜産草地
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

 搾乳牛ふん尿の堆肥化過程においては、強力な温室効果ガスでありオゾン層破壊に関与する一酸化二窒素(N2O)が排出されることから、その削減は重要な課題である。堆肥化過程では、ふん尿中に含まれる有機態窒素の一部が硝化および脱窒過程を経てN2Oとして排出されるが、堆肥由来のN2Oが硝化・脱窒のどちらの経路に依存しているかについての知見はまだ存在しない。また、堆肥内の硝化・脱窒菌のN2O排出に対する寄与については未だ不明な部分が多い。そこで、堆積型堆肥化における環境負荷を軽減する技術開発を行うため、堆肥由来N2Oの分子内安定同位体比(アイソトポマー、図2)解析と亜硝酸態、硝酸態窒素の堆積中の偏在およびアンモニア酸化細菌(AOB)の持つammonia monooxygenase (amoA)遺伝子の分子生態学的解析を行い、堆肥化過程におけるN2O排出機構について明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 亜硝酸態および硝酸態窒素を多く含む完熟堆肥の使用はN2O排出を促進する。
  • 切り返し直前の堆肥頭頂部および表層から高濃度の亜硝酸態および硝酸態窒素が検出される(図1)。また、これらのサンプルからβ-proteobacteriaに属するアンモニア酸化細菌(AOB)由来のamoAおよび16S rRNA遺伝子が多く検出される。検出されたamoAおよび16S rRNA遺伝子のクローンはいずれもNitrosomonas europaea-eutrophaクラスターに属するAOBである。
  • 堆肥化過程における切り返し直後には、顕著なN2O排出増加が認められる(図3a)。このN2Oは分子内15NのSite Preferenceが0-5‰であり、バクテリアの脱窒に由来するものが多くを占めている(図3b)。
  • 切り返し直後のN2O排出の急増は、表層に蓄積した亜硝酸態および硝酸態窒素が主にバクテリアによって脱窒されることに起因する(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は搾乳牛ふん尿4tに副資材(低質乾草)400kgを混合し円錐状に堆積し、2週間に一度フロントローダーおよびマニュアスプレッダーにより切り返しを行った堆肥において得られたデータである。
  • 搾乳牛ふん尿堆肥化過程におけるN2O排出抑制のための基礎的な知見として活用出来る。

具体的データ

図1 堆肥の切り返し直前における亜硝酸態窒素、硝酸態窒素、アンモニア態窒素の偏在 (2回の堆肥化試験の結果)

図2(上)N2O分子内同位体比     (アイソトポマー)の概略 脱窒由来:SP=0‰ 硝化由来:SP=33‰

図3(上)堆肥化過程におけるN2O排出(a)とN2O分子内同位体比(b)の推移

図4(左)堆肥切り返し時におけるN2O排出モデル 堆肥表層(<30cm)でNOxが蓄積

その他

  • 研究課題名:家畜排泄物の効率的処理・活用に向けた飼養管理システム及び資源化促進技術の総合的検証と新たな要素技術の開発
  • 中課題整理番号:214t
  • 予算区分:交付金プロ(温室効果ガス軽減)
  • 研究期間:2008~2010年度
  • 研究担当者: 前田高輝、花島大、森岡理紀、長田隆
  • 発表論文等:Maeda K. et al. (2010) Appl. Environ. Microbiol.76(5):1555-62.
    Maeda K. et al. (2010) Microb. Ecol. 59(1):25-36.